第32話 一件落着?

 ギルドにて――


「ま、魔族が潜んでいたですってぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 カウンターで、受付嬢が素っ頓狂な声を上げる。

 今回のクエストの達成報告をティオから受けた結果だ。


「ま、魔族だって!?」


「嘘だろ……ッ」


 受付嬢の声を聞き、ギルド内の冒険者が騒つき始める。


「よそ者……いや、ティオ殿の報告は本当だ」


「うん……魔族に殺されかけた私たちを、助けてくれた……」


 にわかに信じがたいといった表情の受付嬢に、ユリとスズの二人が言う。


 ティオを〝よそ者〟ではなく名前で呼んだこと。

 そして二人のどこか淑やかな様子に、受付嬢は「……ッ!?」と、面食らってしまう。


「ティオ様、証拠をお見せしましょう」


「ああ、そうですね、アイリスさん」


 アイリスに頷くと、ティオはその場でEXスキルが一つ《ブラックストレージ》を発動する。

 黒い霧が立ち込め、霧散すると――そこに魔族ガイルの死体が現れた。


「こ、これは……収納魔法!? いえ……それよりも、この赤銅色の肌と緑の髪、本当に魔族がいたなんてッ!」


 魔族の死体を目の当たりにして、受付嬢もその事実を受け入れる。

 そのまま上の者に報告すると言って、その場を走り去っていった。


「ティオ殿、本当にすまなかった……」


「それと……ありがとう……。あなたがいなかったら、私たちは……」


 受付嬢がいなくなったところで、ユリとスズが落ち込んだ様子で頭を下げてくる。

 どうやら、今回の件がよっぽど効いたようだ。


「いえ、二人が無事でよかったです。でも、今後は無茶をしないようにしてくださいね?」


「ああ……」


「わかった……」


 苦笑して応えるティオに、ユリとスズは素直に頷くのであった。


「まったく、マスターは優しいんだから」


「それがティオのいいところよ!」


「そんなティオさんが大好きです〜!」


 相変わらずお人好しなティオに、呆れながらも微笑みベルゼビュート。

 リリスとフェリスは改めてティオの優しさを感じて、嬉しそうな様子だ。


 ◆


「三獣魔を復活させなければ……か。魔族は本当にそう言っていたのだな?」


「はい、必死な様子でした」


 ギルドの応接室にて、一人の筋骨隆々の男に答えるティオ。


 男の名は〝ティマス〟――

 このギルドのギルド長である。


 魔族ガイルが戦いの最中で口にした三獣魔という言葉だが……。


 かつて七大魔王にはそれぞれの配下に、その名前で呼ばれる三柱の強力なモンスターが存在した。

 それらはかつての戦いで勇者や賢者、そして世界を救った英雄、魔導王によって討伐・あるいは封印された。


 その三獣魔を復活させようと、今回魔族ガイルは動いていたようだ。


「三獣魔の復活、そんなことが可能なのですか……?」


 ティオの隣で話を聞いていたアイリスが、ティマスに問う。


「ああ、これは噂話に過ぎないのだが……魔族には三獣魔を復活させるための秘術を持つ個体がいるらしい。そして、その秘術に必要な媒体が〝賢者の石〟だという噂だ」


「賢者の石……このような大都市の核に使われている奇石のことでしたよね?」


「ああ、その通りだ、ティオ殿。賢者の石が張る結界があるからこそ、転移スキルなどを持つ魔族の侵入を防ぐことができるのだ」

 

 ティオに頷くティマス。


 これで何となく話が繋がった。


 魔族ガイルは三獣魔復活を可能にする秘術を持っていた、あるいは何らかの方法で手に入れた。

 そして、その秘術を使うために、この都市の核である賢者の石を狙い、モンスターの軍勢を準備していた――


 そんなところだろうか。


「とにかく……ティオ殿、よくやってくれた。もし魔族が戦力を整え、襲撃を仕掛けてきたら、この都市は滅びていたかもしれない。ギルドを代表して礼を言う」


 そう言って、ギルド長ティマスは深々と頭を下げてしまった。


 立場のある人間にそのようなことをされ、ティオは戸惑いつつも、多くの人々の命を守れたことを、誇らしく思うのだった。


 ◆


 その夜――


「うわ〜! すごいご馳走〜!」


「美味しそうなお菓子もいっぱいあります〜!」


 ギルドの酒場で、はしゃいだ声を出すリリスとフェリス。


 魔族ガイルが討伐されたことの祝福、そしてこの都市を救ってくれたティオたちに感謝を表すために、マリサ伯爵とギルドが共同でパーティを開いたのだ。


 外でも屋台が出て、都市の人々がドンチャン騒ぎをしている。


「おお! 貴殿が都市を救ってくれたというティオ殿か!」


「ぜひとも我が娘に挨拶をさせてほしい……!」


 自分も料理にありつこうとウロウロしていたところで、ティオは下級貴族や商人と思われる男たちに捕まってしまう。


 次々と自分たちの娘を紹介してこようとする男たち。


 ティオほどの実力者の血を家系に取り入れられれば将来安泰!


 そんな考えが見え透いている……が、純粋なティオは意味がわからずにオロオロしてしまう。


「まったく、あなたたちは……少しは節操というものを知ったらどうかしら?」


 そんな時、ティオに救いの手が差し伸べられる。


 遅れて到着したマリサ伯爵だ。


 目上の貴族にそう言われてしまっては従う他ない。

 男たちは自分の娘を連れてすごすごと引き下がっていく。


「あ、ありがとうございます。伯爵様、助かりました……」


「いいのよ、ティオ君。それより、私について来てくれない? 私から〝個人的なお礼〟をしたいの」


 そう言って、マリサ伯爵はティオの手を引いて、ギルドの奥の方へと歩き始めてしまう。


 ティオは「……?」と不思議そうな表情を浮かべつつも、伯爵の言うことには逆らえないと、そのままついて行くティオ。


 彼は気づいていない。


 マリサ伯爵が、妖艶な表情を浮かべながら小さく、ペロリ……ッと舌舐めずりしていることに……。

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