第4話 甘えんぼ剣姫
ドパン――ッ!
凄まじい音を立てて、ティオが放った《ブラックジャベリン》が、今まさにアイリスに襲いかかろうとしたレッサードラゴンの肩を穿った。
『ガォォォォォォォン――ッッ!?』
と、苦しげな声を上げて、その場にうずくまるレッサードラゴン。
仲間がやられたのを見て激昂したのか、アイリスの後方にいたレッサードラゴンが、彼女を無視してティオの方に駆けてくる。
「お前も喰らえ、《ブラックジャベリン》ッ!」
再びティオが漆黒の魔槍を放つ。
魔槍が閃光となって疾り、レッサードラゴンの巨大な顎門へと飛び込んだ刹那――そのまま脳天まで貫いた。
「トドメだ!」
激痛で蹲っている個体の頭に、さらに《ブラックジャベリン》を放つティオ。
こちらも脳天まで貫通し、白目を剥いて崩れ落ちた。
「う、うそ……レッサードラゴン二体を一瞬で……ッ」
呆然と二体の死体を見つめるアイリス。
そんな彼女に近づき、ティオは「大丈夫ですか?」と言いながら、回復薬ポーションを差し出す。
「え、は……はい! 助かりましった――って、追放された黒魔術士っ!?」
ティオの顔を見て、先ほどよりも驚いた表情をするアイリス。
その心境は(底辺職の黒魔術士がいったいどうやって……!?)といったところだろうか。
「話は後です。とりあえず肩の傷を治してください」
「わ、わかりました。ありがとうございます……」
グイッと、ティオにポーションを突き出されると、なぜか恥ずかしげな表情を浮かべながらそれを受け取るアイリス。
心なしか頬がピンクに染まっているような……気のせいだろうか?
それはさておき。
アイリスが肩の傷を治したところで、ティオはこうなった経緯を尋ねてみる。
「ギルドからの依頼で、Bランクモンスターの〝ミノタウロスナイト〟の討伐に来たのですが、この階層にいるはずのないレッサードラゴンに包囲されて……それもいきなり、何もない空間に二体が現れたのです」
「何もない空間から……?」
「はい、不意打ちを喰らってしまい、利き手で剣が持てなくなったところを、あなたに助けていただきました……」
ティオの質問に、アイリスはなんだか……ぽーっとした様子で受け答えする。
それにしても変な話だ。
通常であれば現れないはずの階層に現れたAランクモンスター、レッサードラゴン。
迷宮内で突然モンスターが生まれることはあるが、その場合は迷宮の壁から発生するのが常だ。
それが何もない空間からとなると……信じ難い話である。
しかし、彼女がウソを言っているようには思えない。
それにそんなウソを言う必要もない。
とりあえず、都市に戻って冒険者ギルドあたりに報告するのが妥当だろう――
ティオはそう判断した。
「あの……黒魔術士様、お名前を聞かせていただけませんか……?」
ギルドでぶつかりそうになった時の、侮蔑したような態度から一転。
アイリスが〝様〟などとつけて、しおらしい様子で問いかけてくる。
「ああ、ぼくはティオと言います。恥ずかしいので様はやめてください」
苦笑しながら答えるティオ。
そんなティオに、アイリスは――
「ああ……強いだけでなく、なんて謙虚でお優しいお方なのでしょう……っ♡」
――そんな甘い声を漏らしながら、少し屈むと、ティオの片腕を抱きしめてきた。
むにゅん……っ! 彼女の戦闘装束越しに、ティオの腕に暴力的な柔らかさが伝わってくる。
言わずもがな、アイリスの大きく実った胸である。
ティオよりも背の高い彼女が屈んだせいで、表情がよく見える。
その頬は先ほどよりも濃いピンクに染まっており、どういう構造をしているのか、綺麗なアイスブルーの瞳の中に、小さなハートが浮かんで見える。
「ち、ちょ……っ! ア、アイリスさん――でしたよね? 急に何を……ッ」
突然の出来事に慌てるティオ。
アイリスを振り解くために、腕を引っ込めよう……とするのだが――
「い、いや! 離れたくないです……!」
そう言って、アイリスはさらにティオの腕を強く抱きしめてしまう。
「え、えっと……もしかしてさっきの出来事のせいで、恐怖心が……?」
「え? あ! そ、そうです! まだ怖くて怖くて……迷宮を出るまでこうしていいでしょうか?」
ティオの質問に(それだ!)みたいな様子で食いついてくるアイリス。
純粋なティオは(まぁ、そういうことなら仕方ないか……)と納得し、それを許すことにする。
「あ、せっかくだから回収しないと、《ブラックストレージ》っ」
思い出したかのように、ティオはスキルを発動する。
レッサードラゴンの死体が二つとも漆黒の霧に包まれ――綺麗さっぱり消え失せた。
「ティ、ティオ様、今のは……?」
「アイリスさん、今のはアイテムボックスと似たような効果を持つ、ぼくのスキルです」
「ア、アイテムボックスと似たような……ということは、収納したということですか!? ティオ様はすごいです!」
興奮した様子で声を上げるアイリス。
そのままさらにティオに密着すると、甘えるかのように自分の頬を、ティオの頬にスリスリしてくる。
大胆なスキンシップに、ティオはさらに、ドキッ! としてしまう。
ティオの最初の印象では、アイリスは孤高の上級冒険者……といった感じだったのだが――
頬ズリし、エルフ耳をピコピコと嬉しそうに上下させるその様は、まるで甘えきった飼い猫のようである。
アイリスの過剰なスキンシップに翻弄されつつ、ティオはモンスターどもをEXスキルで蹴散らしながら、迷宮を出る――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます