第9章 6 幕切れ

 その時―。


突然取調室の扉が激しくノックされた。


ドンドンドンッ!


「全く何だ?取調の真っ最中に…」


そしてロイド署長は立ち上がって扉を開けるとそこには1人の警察官が立っており、ロイド署長に耳打ちした。一方、アグネスはその様子を震えながらじっと見ている。


(取り調べ…やっぱりこれは取調だったのだわ!で、でも…大丈夫。きっと彼が…何とか私を助けてくれるはずよ。だって彼はベルンヘルの警察署長なのだから)


アグネスは自分の愛人の署長が軟禁状態にあるにも関わらず、希望を抱いていた。


「何っ?!…分かった。連絡ありがとう。またその話は後でな」


ロイド署長は警察官に言うと、その人物は頭を下げて退室して行った。


「何かあったのですか?」


リカルドがロイド署長に尋ねた。全員が彼に集中している。


「ああ…大変な事が起きてしまった」


署長は大きくため息を付くとアグネスを見た。


「残念だったな。アグネス・マゼンダ。お前の待っていた人物…ベルンヘルの署長が服毒自殺を図ったそうだ。たった今連絡が入ったよ」


「「「「「何ですってっ?!」」」」」


全員が声を揃えた。


「全く…何て事だ。まさか毒を所持していたとはな…。だが、証拠は全て揃えてある。被疑者死亡でも起訴することは出来る」


そしてロイド署長は青ざめた顔で震えているアグネスを見ると言った。


「残念だったな。アグネス。もうお前は終わりだ。頼みの男…ムント・グライナーは死んだ。お前を助ける者はもういない」


ロイド署長の言葉にアグネスは最早言葉を無くし、ガックリと首をうなだれるしかなかった―。




****


アグネスが取調室から連行された後、リヒャルトはロイド署長に尋ねた。


「エーリカは…どうしているのですか?」


リヒャルトはエーリカとスカーレットが年齢が近いこともあり、気になっていたのだ。しかもまだたった17歳なのに、娼館でアヘン漬けにされた挙げ句、男たちの慰み者にされていたかと思うと、哀れでならなかった。


(そうだ…あんな母親に育てられたばかりにエーリカは不幸な目に遭ってしまったのだ…)


「…ドアの窓越しからなら見ることが出来ますが…どうしますか?」


「はい、それでもかまいません」


リヒャルトは頷く。するとヴィクトールが言った。


「リヒャルト様、我々は外で待っています」


「ああ、すまない。すぐに戻る」


「私もエーリカの様子を見に行きます」


リカルドも自分がエーリカを保護したこともあり、気になっていた。


「では3人で参りましょうか?」


ロイド署長の言葉に2人は頷く。そして3人はエーリカが収容されている留置所へ向かった。




****



「この留置所にエーリカがいます。男性を見ると興奮して暴れるので彼女の世話は女性警察官が担当しているのです。なのでこの窓から様子を覗くだけでお願いします」


ロイド署長の言葉にリヒャルトは頷く。その部屋は鉄の扉で出来ており、はめ殺しの小さな窓がついている。そこからリヒャルトはそっと覗き込んだ。


小さな木のベッドの上で鉄格子の窓からじっと外を眺めているエーリカがそこにいた。身体はガリガリに痩せ細り、その瞳は虚ろだった。


「エーリカ…」


リヒャルトはポツリと呟いた。


「彼女は…元に戻るのでしょうか?」


「さぁ…精神科医の話では…難しいのではないかと…娼館では相当酷い性的暴行を受けていたそうですからね…」


ロイド署長は気の毒そうな表情でエーリカを見た。


「流石に同情しますね…。でもあの娼館はもう警察が介入したので取り潰されることになりますよ。あの娼館で働かされていた女性たちも全員保護されましたし」


「そうですか…なら少しは救いが遭ったのかもしれませんね」


そして再びエーリカを見つめるのだった―。

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