第8章 1 夜の廊下で
スカーレットの話が終わってから数日後―
「アリオス…いいのか?今夜もまたカールや婚約者と一緒に夕食を食べなくて」
アリオスはザヒムと一緒に町の酒場に来ていた。この酒場は貴族も出入りするので品の良い客層が多かった。ザヒムと隣同士にカウンター席に座ってグラスを傾けながらアリオスは答えた。
「ああ…いいんだ。あまり親しくなりすぎると…別れがたくなるからな」
そしてため息をつく。
「な、何だってっ?!」
その言葉に驚いたのはザヒムだった。
「おい!アリオス!今のはどういう意味なんだっ?!」
「え?何がだ?」
アリオスはキョトンとした様子でザヒムを見た。
「お前、たった今あまり親しくなりすぎると…別れがたくなるって言ったじゃないか。それってスカーレット嬢の事だろう?」
「あ…」
(しまった…!ついうっかり口が滑ってしまった…!)
強いアルコールのせいで失言してしまった事に気付いたが…もう遅かった。
「どういう事なんだ?説明してもらうからな?」
ザヒムの目は…まるで狙った獲物は逃がさない…そんな瞳をしていた―。
****
「な、何だってっ?!」
アリオスの口から全ての事情を聞かされたザヒムは驚きの声を上げた。
「おい、そんなに大きな声を出すな。…見ろ、周りの皆が妙な目で見ている」
「あ…ああ、すまなかった…つい興奮のあまり…」
「まぁ驚くのも無理はない話だよな?」
苦笑しながら言うアリオスにザヒムが言った。
「まるで他人事のような言い方じゃないか。お前自身の話だろう?」
「ああ…確かにそうなんだが…」
「アリオス。お前…本当はスカーレット嬢の事が好きなんだろう?認めろよ」
「…そうだ。俺は彼女が…好きだ」
そしてアリオスは持っていたグラスをクイッと飲み干すと、テーブルの上に置いた。
「だったら何故気持ちを打ち明けない?」
「…それは出来ないんだよ」
「何故だ?」
「スカーレットは…ある事がきっかけで男性恐怖症になってしまったんだ…。そんな彼女に告白なんて出来ると思うか?」
「アリオス…」
アリオスは多くを語らなかったが、ザヒムは過去にスカーレットの身に何が起きたのか容易に察する事が出来た。だが…。
「なぁ、アリオス…少なくとも俺の目にはスカーレット嬢はお前を怖がったりしているようには見えないぞ?いや‥‥むしろお前に気があるとしか思えない」
「…気休めを言うのはやめてくれ」
アリオスは寂しげに言った。
「いや、気休めなんかじゃないぞ?スカーレットにあったら近寄って挨拶してみろよ。もし少しでも恥ずかしがっている様子を見せれば…俺は間違いなく彼女はお前に好意を持っていると思うぞ?」
言いながらザヒムは残りのグラスをあけた―。
****
23時半―
すっかり帰りが遅くなってしまったアリオスはアルコールのせいでふらつきながら月明りで青白く照らされた廊下を歩いていた。そしてスカーレットの部屋の前を通り過ぎた時、背後でカチャリとドアが開かれる音が聞こえたので振り返った。
「スカーレット…」
するとそこには夜着の上にガウンをしっかり着用しているスカーレットが立っていた。
「お帰りなさいませ、アリオス様」
そして頭をさげて来た。
「スカーレット…これは驚いたな…まだ…起きていたのか…?」
アルコールで赤らんだ頬でアリオスはスカーレットを見た。
「はい。お帰りが遅かったので…心配のあまり‥‥」
俯き加減で言うスカーレットの姿にアリオスの胸は高鳴った。
「あ、ああ…心配かけさせてしまったんだな?すまなかった。もう戻ったから君も安心して休むといい」
それだけ言って、背を向けた時…酔いの為に足がふらついた。
「危ない!」
スカーレットが咄嗟にアリオスを支えると言った。
「アリオス様…そんなにふらついていては危ないです。私の部屋に水差しがありますからお水を1杯飲んでいかれませんか?」
「あ、ああ…ではそうさせて貰おう…かな…」
「ええ。どうぞ」
スカーレットは笑みを浮かべてアリオスを部屋へ招き入れた―。
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