第7章 3 リヒャルトとブリジット
「ま…まぁ!ど、どうされたのですか?!スカーレット様!ずぶ濡れではありませんか!」
エントランスまで様子を見に来ていたブリジットはスカーレットがリヒャルトの着用していたベストを羽織り、抱きかかえられるように屋敷に戻ってきた姿を見て悲鳴を上げた。
「ブリジット、スカーレットが池に落ちた帽子を拾おうとしてそのまま水の中に落ちてしまったのだ。すぐにタオルを持ってきてくれないか?」
寒さでガタガタ震えているスカーレットを抱きかかえながら話すリヒャルトの姿にブリジットは、ハッとなった。
「し、承知致しました!すぐに持って参ります!」
ブリジットは踵を返すと、急いで屋敷の奥へバタバタ足音を立てながら消えて行った。
「大丈夫か?スカーレット」
リヒャルトはすっかり唇が紫色になったスカーレットを抱きしめながら尋ねる。
「お、お父様…さ、寒いわ…」
「スカーレット…」
リヒャルトは娘の腕や背中を必死にさすっていると、やがて何人かの足音と共にブリジットが駆けつけてきた。背後には普段からスカーレットによくしてくれている2人のメイドも一緒だ。
「すぐにバスルームに熱いお湯をご用意致しました。さ、こちらへ」
1人のメイドがスカーレットに手を差し伸べた。
「ああ、娘を頼む」
リヒャルトの言葉に2人のメイドは顔をあげ、ポッと頬を赤らめた。それ程までに彼は美しかったからだ。
「か、かしこまりました」
メイドは慌てて頭を下げるとバスタオルでスカーレットをくるみ、バスルームへ連れて行った。そしてエントランスに残されたのはブリジットとリヒャルトの2人のみ。
「だ、旦那様…正気に戻られたのですね…?」
ブリジットは涙ながらにリヒャルトを見上げた。
「ああ、そうだよ。今までずっと頭の中にモヤがかかっていたみたいだったが…今ではすっきりしている。すまなかった…ブリジットには色々迷惑をかけてしまったようだね」
「いいえ…いいえ…!迷惑だなんて、そんな…」
ブリジットは首を振り、そして言った。
「あ!リヒャルト様こそずぶ濡れではありませんか。すぐにバスルームをお使いください」
「いや、私なら大丈夫だよ。水の中に落ちたわけではないのだから」
リヒャルトは手を振るが、ブリジットは毅然とした態度で言った。
「いいえ、なりません。リヒャルト様に何かあってはスカーレット様にも、亡くなられた奥様にも申し開き出来ませんから。さ、どうぞこちらへいらしてください」
ブリジットは言うと、リヒャルトの前に立って歩き始めた。
「はいはい、ブリジット」
リヒャルトは苦笑いをしながらついて行った。元々ブリジットはリヒャルトが子供の頃から屋敷に仕えていたメイドだったのだ。流石のリヒャルトもブリジットにだけはどうしても頭が上がらなかった。
そして、その日の内にリヒャルトが以前の自分を取り戻した事が屋敷中に知れ渡り…スカーレットはこの日から高熱を出して、寝込んでしまう事となる―。
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