第5章 15 バーラウンジ
ジミーがホテルから出た後、アリオスはスカーレットに言った。
「スカーレット、お前と2人きりで話したいことがあるんだ。時間を貰えないだろうか?」
「え…?」
スカーレットはアリオスの突然の申し出に戸惑い、ブリジットを見た。
「私なら大丈夫です。1人で先にお部屋に戻っております」
「そう?それじゃ…先に戻っていて」
そしてアリオスを見た。
「はい、大丈夫です」
「そうか、良かった。この階にバーのラウンジがあるんだ。そこへ行こう」
「分りました」
するとブリジットは言った。
「ではアリオス様、スカーレット様。お先に失礼しますね」
ブリジットは頭を下げると去って行った。
「では行こう」
「はい」
アリオスに促され、スカーレットは頷いた。
アリオスに連れて来られたバーラウンジはそれまでスカーレットが一度も体験したことの無い、未知の場所だった。
うす暗い明かりの広いホールには重厚そうなカーペットが敷かれている。ラウンジにはカウンターがあり、奥では白いシャツにえんじ色の蝶ネクタイ姿の男性がグラスにワインを注いで席に座る男女のカップルに差し出している。ラウンジには楕円形のテーブルセットが置かれ、10組程度の客がお酒を楽しんでいる光景が目に移った。
「いらっしゃいませ。2名様で宜しいでしょ?」
ラウンジに着くとスーツ姿の若い店員がアリオス達を迎えた。
「ああ」
アリオスは感嘆に頷くと、店員は2人をラウンジの丁度中央に設置されたテーブル席に案内するとメニューを渡して来た。テーブル席にはキャンドルライトが揺れている。
「ありがとう」
アリオスは礼を言って受け取る。店員はスカーレットにもメニューを手渡してきた。
「ありがとうございます」
「お決まりになりましたら手を上げてお呼び下さい」
店員は頭を下げると去って行った。
「…」
スカーレットはメニューを受け取ったものの戸惑っていた。何せスカーレットにとってバーに来るのは生まれてはじめてなのだ。しかもお酒も殆ど飲んだことも無い。
「どうした?スカーレット」
アリオスはメニュー表を見ながら困っている様子のスカーレットに気が付き、声を掛けた。
「い、いえ…どれを頼めば良いか分からなくて…私、このようなお店に来るのは生まれて初めてなので」
「そうなのか?…でもそうかもしれないな。スカーレットは我が家に来てからは、殆ど夜の外出はしたことが無いし…なら俺が選ぼうか?」
「はい、是非お願いします」
「ならアップルシャンパンなんてどうだろう。甘くて飲みやすいはずだ」
「まぁ、りんごのお酒ですか?美味しそうですね。是非、それでおねがいします」
「分かった。」
アリオスは頷くと、サッと手を上げた。すると素早く店員がテーブルにやってきた。
「ご注文はお決まりですか?」
「ああ。こちらの女性にはアップルシャンパン。それにブランデーを頼む」
「かしこまりました」
店員は頭を下げると去って行った。
「アリオス様はこういうお店には良く来るのですか?」
「うん…そんなに多くは来ない。昔はまぁまぁ来ていたが、最近ではプライベートでくることは無かったな。大体は仕事関係者と来ていた」
「そうですか…」
「嫌いか?」
「え?」
「こういう雰囲気の店は…あまりスカーレットの好みではないか?」
「い、いえ。そんな事はありません。何というか…雰囲気があって素敵だと思います」
するとアリオスはフッと笑った。
「そうか、気に入ってもらえて良かった」
その時、2人の元にアルコールが運ばれてきた。
「お待たせいたしました」
そしてスカーレットの前にはシャンパン、アリオスの前にはブランデーが置かれた。
「ごゆっくりどうぞ」
店員が頭を下げて去っていくとアリオスは言った。
「それじゃ、乾杯しようか」
「はい」
「「乾杯」」
2人は互いのグラスを持つと、カチンとならした―。
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