第5章 13 相談する相手は
「・・・・」
シュバルツ家の帰り道、アリオスは腕を組んで不機嫌な顔をしながら馬車の中で座っていた。
「…気に入らん」
馬車の外に目を向け、遠ざかっていくシュバルツ家の屋敷を見つめながらアリオスは呟いた。屋敷の中は想像以上に酷いものだった。手入れの行き届いていない室内。絵画や装飾品のようなものは殆どなく、使用人も数えるほどしかいない。にも関わらず、アグネスとエーリカは豪華なドレスと宝石に身を包んでいるのだ。それに反してスカーレットのなんと質素な事か。出自が分らないあの2人とは違い、スカーレットはこの『リムネー』の町を治める伯爵家の一人娘である。なのにスカーレットは決して贅沢をしない。ドレスの類は一切持たず、いつも質素な…まるで平民が着るようなワンピースを着ている。アクセサリーの類も殆ど持ったことも無い・・それ程質素に暮らしている。しかし、その美貌は太陽の様に輝いている。
「スカーレット…俺は、君を…」
アリオスは溜息をつくと、遠ざかるシュバルツ家を見つめた―。
「お帰りなさいませ、アリオス様。カール様は今午睡中ですが、起こされますか?」
ホテルに到着後、スカーレット達の部屋を訪れたアリオスは首を振った。
「いや、まだいい。カールを起こす前に2人に話しておきたい事があるのだ」
アリオスはソファに身を沈めると言った。
「2人共、座ってくれ」
「「はい」」
スカーレットとブリジットはアリオスの向かい側のソファに座ると、早速アリオスは口を開いた。
「実は、シュバルツ家に様子を見に行って来たのだ」
「え…?そうなのですか?」
ブリジットは目を見開いた。
「そ、それで?お屋敷の様子はどうなっておりましたか?」
スカーレットは切羽詰まった様に尋ねた。
「…酷い有様だった。絵画や装飾品のようなものは一切見当たらず、掃除も行き届いていない。圧倒的に使用人の数が足りないのだ。それなのに、あの屋敷に図々しく乗り込んできた母親と娘は豪華なドレス高価な宝飾品のアクセサリーを身に着けていた。分不相応にも程がある」
アリオスは忌々し気に言う。
「そうだったのですか…」
スカーレットは青ざめた顔で呟く。
「そ、そんな…!それではシュバルツ家があの卑しい母娘に食い尽くされて行くのを私達はただ傍観しているしかないと言うのですか?!」
ブリジットは顔を真っ青にさせながら言う。
「お願いします!アリオス様っ!あの親子を何とかして頂けませんか?!アリオス様なら出来るはずですっ!それだけの力がある方なのですから!」
ブリジットは興奮気味にアリオスに詰め寄った。当のスカーレットよりもブリジットの方が取り乱していた。しかし、それは無理もないと言うもの。シュバルツ家はブリジットにとって、反省を捧げたようなものだったからだ。
「落ち着いて、ブリジット。いけないわ、アリオス様を巻き込んでは」
スカーレットは興奮するブリジットの肩に手を置くと諭した。
「スカーレット様…」
「これは…シュバルツ家の問題なのよ。アリオス様には無関係なお話なのだから迷惑をかけてはいけないわ」
無関係…その言葉はアリオスの胸にチクリと突き刺さった。
(確かに俺には関係の無い話だが…まるでスカーレットに距離を取られているように感じるのは何故だろう。もっと自分を頼ってくれればいいのに。そうすれば、手を差し伸べるのに…)
こうなったら自分から手助けを申し入れよう…そう思った時、スカーレットが言った。
「ブリジット、良い考えがあるわ。アーベルに相談しましょう。あと、今夜ジミーにも会うから彼にも」
「それは良い考えですね」
ブリジットは嬉しそうに言う。2人の様子を見ながら、アリオスは何故か寂しい気持ちになるのだった―。
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