第5章 6 公園の管理人
民芸品の店を出て、5分程歩くとシュバルツ家が管理する美しい湖とブナの木立に囲まれた私立公園が現れた。広さは約10ヘクタールもあり、観光客は必ずと言って言いほど、この公園を訪れている。湖には手漕ぎボートの他に足で踏むペダルボートが完備されている。ほかに芝生で覆われた公園も備えてあるので休日はピクニックを楽しむ人々も数多くいる。
「ああ…この公園、以前来た時と少しも変わっていないわ」
公園を目にしたスカーレットは安堵のため息を漏らした。
「うわあ…とても綺麗な場所ですね。」
生まれて初めて湖を見たカールは感嘆の声を上げた。澄んだ湖面には青い空に白い雲、そしてブナの木立が映し出されている。湖の中程にはボートを楽しむ人々がいる。それを羨ましそうに見つめているカールにアリオスは声を掛けた。
「カール。ボートに乗ってみるか?」
「はい!乗りたいです!」
カールは元気よく返事をした。
「フフ…では湖の管理人さんの所へ行ってみましょう」
スカーレットはカールに言った。
「管理人はどこにいるんだ?確かシュバルツ家が雇っているのだろう?」
アリオスが尋ねて来た。
「はい。あそこにボートが見えますよね?その側にログハウスがあるのが分りますか?」
スカーレットの指さした先には湖に浮かボートの側にログハウスが建っているのが見えた。
「あのログハウスに管理人がいるのか?」
「はい、ただいるだけではありません。あそこに4名、1年に1度の交代でシュバルツ家で働く使用人が住んで管理する事になっています」
「そうなのか?」
「はい、でも…彼らのお給金がきちんと支払われてるか心配です。公園が綺麗なまま保存されていると言う事は、多分誰かが働いているはずですら」
スカーレットがしんみり言う。
「よし、では早速あのログハウスを訪ねてみよう」
「そうですね」
「僕、速くボートに乗ってみたいです」
カールは嬉しそうに言う。そして3人はログハウスへ向かった。
そのログハウスはブナのを加工して作られたハウスだった。湖の方を向いて作られたオープンデッキには木製のベンチとテーブルが並べられている。小屋は東西南北全ての方角に四角い窓が付いていた。
コンコン
スカーレットは扉の前に立つと、ドアノッカーを掴んでノックした。
カチャ…
少しの間を空けてログハウスの扉が開かれ、中からは30代と思しき1人の男が現れた。
「あの…」
スカーレットが声を掛けると、男がハッとした顔になる。
「ま、まさか…スカーレット様ですか?!」
「え、ええ」
スカーレットはこの男の顔の面識は無かったが、相手はすぐに頭を下げた。
「まさか…またお会いできるとは思いもしませんでした!数か月前、屋敷に勤めていた仲間から話を聞いていたのです。リヒャルト様の妻と娘を名乗る2人の女が現れて屋敷を乗っ取り…スカーレット様を追い出してしまったと…」
「ええ、そうなのです。でも今はこの方のお屋敷でお世話になっています」
スカーレットはアリオスを紹介した。
「アリオス・チェスターと言う。そして弟のカールだ」
アリオスはカールの両肩に手を置くと挨拶した。
「初めまして。カールです。あの…僕、ボートに乗りたいのですけど」
「ああ。そうなのですね?ではすぐに用意致しましょう。あ。申し遅れました。私はベンといいます。よろしくお願いし致します。それでは皆様もついてきて下さい」
ベンと名乗った男は笑みを浮かべるとボートの準備をする為に湖のほとりへ向かい、3人は彼の後を追った―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます