前のエピソード――第４章　7　見知らぬ部屋での目覚め

「ア、アイザック皇子様…ご機嫌いかがでしょうか…？」

スカーレットは震えながらも何とか挨拶をする。

「ああ。」

アイザック皇子は短く挨拶すると言った。

「気が付いて良かった。しかし驚いたよ、君を乗せた馬車が到着したと知らせを受けたから出迎えてみれば馬車の中で意識を失っているのだから」

その言葉にスカーレットは疑問に思う事を尋ねた。

「なぜアイザック皇子様が出迎えにいらしたのでしょうか…？あ、あの…これは別にアイザック皇子様の出迎えを拒んでいると言う訳では…」

スカーレットは男性恐怖症と戦いながらアイザック皇子に尋ねる。

「ああ。妹なら今『ローズガーデン』のサロンで貴族令嬢達を呼んでお茶会を開いているよ」

「え…？」

スカーレットはその言葉に耳を疑った。てっきり今回の呼び出しは自分1人だと思っていたからだ。

アイザック皇子は続ける。

「それにしても妹も中々人が悪いな。本来、お茶会の知らせは呼ばれる令嬢達だって色々準備や予定もあるだろうから遅くても半月以内には招待状を送ることになっているのに…君にだけはお茶会が開催される2日前に招待状を出すなんてね」

「…」

スカーレットは無言で話を聞いていた。

「多分、ろくに準備をする機会を与えないように君を呼ぶのをギリギリまで控えていたんだろうね？この間のパーティーで初めて君に会ってから何だか様子がおかしかったし。恐らく妹は…君に恥をかかせたかったのかもね。大勢の貴族令嬢たちの前で。現に今の君はまるで使用人のような恰好をしている」

「こ、これは…ふ、普段着なのです。」

（だ、だって‥‥こちらに来るつもり等一切無かったから…！）

アイザック皇子に指摘され、スカーレットは羞恥で顔が赤くなってしまった。

スカーレットの父は領民をとても大切にする伯爵だった。その為、質素倹約に生きるように教育されてきたのだ。なので普通の貴族令嬢達が好んで着るような流行りのドレスなどは一切持っていなかったし、欲しいとも思わなかった。そんなものを買いう位なら本を買った方がましだと思って生きてきたからだ。

けれど、ヴァイオレット皇女が自分に恥をかかせようとしていた話を聞かされたときは正直ショックだった。

「妹はチェスター家のアリオスから早馬で手紙が届いたときは大喜びしていたからね。だけど手紙の内容を呼んだ途端、顔色が真っ青になったよ。まさかお茶会の誘いをアリオスから断られるとは思っていなかったんだろうね？」

「そ、そんな…」

「それでどうにも腹の虫がおさまらなかったのかもしれないね。いきなり本日自分から君の元に迎えの馬車をよこしたんだから」

スカーレットは信じられない思いでアイザック皇子の話を聞いていた。

「到着した馬車の中で妹は君が中で気を失っているのを見て、かなり驚いていたし、悔しそうにもしていたらしいよ。これではお茶会に出席するのは無理だと言って、他の令嬢達の出迎えに行く事にしたそうだ。なのでその話を執事が伝えにやって来たんだよ。そこで私が君をここへ運ばせたのさ。今頃妹はもう招待した貴族令嬢達とサロンでお茶会を開いているよ」

「そ、そうですか…。なら私はもう必要ありませんね？」

ヴァイオレット皇女の考えにショックを受けながらもスカーレットは尋ねた。

「そうかな？」

何故かアイザック皇子が含みを持たせた言い方をした―。