第3章 6 目覚めたカール

カチコチカチコチ…


静かな部屋に時計の音だけが響いている。スカーレットはカールの枕元にサイドテーブルと椅子を寄せて翻訳の仕事をしていた。その時…。


「う〜ん…」


ベッドの上でカールが身じろぎをすると、薄っすらと目を開けた。


「カール様っ?!」


スカーレットはペンを置くと、カールを覗き込んだ。


「あ…スカーレット様…?」


「良かった…カール様。目を覚まされたのですね?」


「は、はい。あの、僕一体どうしたのでしょう…?」


カールは一時的に記憶が混濁しているようだった。


「はい、カール様はハインリヒ様から私を守って下さろうとして、ハインリヒ様に投げ飛ばされてしまい、気を失ってしまわれたのです」


スカーレットはカールの右手を握りしめながら言う。


「あ…そう言えばそんな気がします…すみませんでした。スカーレット様」


カールが謝罪してきた。


「え?何を謝られるのですか?」


「はい…僕がもっと大人だったら、ちゃんとスカーレット様を守れたのに…」


カールの小さな手は微かに震えていた。


「カール様…」


スカーレットは言った。


「いいえ、そんな事はありません。カール様はとても勇敢でした。カール様が私を助けて下さったんです。ありがとうございます」


「スカーレット様…」


すると突然カールはベッドから起き上がった。


「どうしたのですか?カール様」


「あの、勉強をするんですよね?それで僕が目を覚ますのを待っていたんですよね?」


それを聞いたスカーレットは慌てて引き止めた。


「いいえ、カール様。本日は授業はもうお休みで大丈夫です。どうぞゆっくりお休みになって下さい」


「え…?でも…?」


そこでスカーレットは少し考えると言った。


「そうだわ、カール様。私がこれからここのお屋敷の図書室から何か本を借りて参ります。今日の授業は読書をすることに致しましょう。私もカール様と一緒に読書をさせて頂きますから」


「はい!」


カールは元気よく頷いた。




****



 スカーレットはブリジットと共に図書室へ向かって歩いていた。やはりまだ男性恐怖症が続いているスカーレットはブリジットがいなければ屋敷内を自由に歩く事が出来ずにいたからだ。


「ごめんなさいね、ブリジット。折角お休みをしてもらっていたのに、図書室までつき合わせてしまって」


スカーレットは申し訳無さそうに言う。


「何を仰るのですか?私のここでのお仕事はスカーレット様のお手伝いですから、どうかお気になさらないで下さい」


「そう?ありがとう。ブリジット。あのね、図書室へ行く前に少し寄り道をさせてもらえないかしら?」


「はい、私はかまいませんが、どちらへ行かれるのですか?」


「ええ、アリオス様のところへ少し寄りたいの」


「アリオス様のところへですか?」


「ええ、カール様が目を覚ましたのでそれを伝えて来ようかと思って」


「そうですね。では参りましょう」


そして ブリジットとスカーレットはアリオスの部屋へと向かった。


そこで思い掛けない人物に会うことになる―。








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