第3章 ４ チェスター家の過去
ハインリヒが去った後、スカーレットはようやく呼吸が出来るように感じた。そして自分の腕の中でぐったりしているカールに声を掛けた。
「カール様…」
するとアリオスがスカーレットに言った。
「とりあえずカールをベッドへ運んでくれ。俺は主治医に連絡をしてくる」
「はい、分かりました」
スカーレットが返事をすると、アリオスはすぐに部屋を去っていった。スカーレットはカールを抱き上げ、ベッドへ運ぶと寝かせた。
「カール様…」
スカーレットは気を失っているカールの髪にそっと触れた。カールはピクリとも動かない。
「ご、ごめんなさい…カール様…」
スカーレットはカールの頬に触れながら涙を流した。
（本当は家庭教師の私がカール様を守らなければならない立場だったのに…私を助ける為にカール様が怪我を負ってしまうなんて…。身体も弱くて、まだこんなに小さい子供なのに…）
その時、アリオスが部屋に入ってきた。
「アリオス様…！」
「先程電話で主治医に連絡を入れた。直にやってきてくれるだろう」
「そうですか。それは良かったです。」
スカーレットはうつむいて返事をした。
「一体何があったんだ？教えてくれ」
アリオスは部屋に置かれた椅子に座るとスカーレットにも椅子を勧めてきた。そこでスカーレットも椅子に座ると説明を始めた。
「はい、分かりました…。部屋でカール様と授業をしている時に突然ハインリヒ様が部屋の中に入って来たのです。そして夏季休暇で屋敷に帰って来たのでカール様の顔を見にやってきたと仰っしゃりました。」
「何？授業中なのにあいつはノックもしないでこの部屋に現れたのか？」
アリオスが眉をひそめる。
「はい、それで次にハインリヒ様は私を見ると声を掛けてきて…突然手を握りしめてきたのです…そ、それで…私が怯えている姿を見てカール様が私を助けようとハインリヒ様を引き離そうとして…」
「そうか、それでカールはハインリヒにあんな目に遭わされたのだな？」
「はい、そうです…でも、私がいけなかったんです」
「何故スカーレットのせいになるのだ？」
アリオスがじっとスカーレットを見る。
「わ、私がもっと気丈に振る舞っていればカール様は…」
しかしアリオスは言った。
「いや、それはないな。スカーレット、君の事があろうがなかろうが関係なくハインリヒはカールに手を出していたはずだ」
「え…？それは一体どういうことですか？」
するとアリオスは一度ため息をつくと言った。
「カールが俺とハインリヒとは腹違いの兄弟という事は知っているだろう？」
「え？ええ・・・」
「ハインリヒはカールを恨んでいるんだよ。」
「恨む？一体何故ですか？」
「それは俺たちの母親が父に離婚されたのはカールの母親に心を奪われたからだ。」
「え？」
スカーレットは耳を疑った。
「父はカールの母親を気に入ってしまい、母と強引に離婚したのだ。そしてカールの母親と再婚し…カールが生まれた。」
「！」
（まさか…お2人のお母様が離婚させられていたなんて…！）
「ハインリヒは母親っ子だった。それが父の身勝手で離婚させられ、やって来たのは母親とは呼べないほどの年若い女性…当時の彼女はまだ17歳だったからな。そして18歳の時にカールが生まれたのだ」
「！」
スカーレットはその話に驚愕した。まさかカールの母親がそこまで若いとは思わなかった。
「彼女はまだまだ子供だ…カールの子育てなど所詮無理だったというわけだ」
スカーレットは黙ってアリオスの話を聞いている。
「父は年若い妻にすっかりのぼせ上がり、2人は幼いカールをこの屋敷に残し、避暑地へとさっさと移り住んでしまった。そしてハインリヒはますますカールを憎み、何かとあればカールを虐めるようになった。だから俺はハインリヒを遠くの寄宿学校へやったんだ…それなのに…」
アリオスは疲れ切った表情でため息をついた―。
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