第1章 42 噂が広がっても

 じっとスカーレットの話を聞いていたブリジットだったが、スカーレットの強い決意を知り、自分自身の思いを告げる決意を固めた。


「あ、あの・・・弁護士さんっ!」


すると、弁護士はブリジットを見ると改めて言った。


「そう言えば・・申し訳ございませんでした。まだ私としたことが自分の名前を皆様に告げておりませんでした。私はジョン・カーターと言います。」


「そうですか、ではジェフリー様。お願いがございます。スカーレット様は・・住み込みの家庭教師となるわけですよね?」


「ええ・・そうなりますね。」


「ならお願いがございますっ!どうか私をスカーレット様の付き人として一緒に雇って頂けるようにお願いしていただけないでしょうか?雇用期間は勿論スカーレット様が家庭教師を続ける期間で構いませんのでっ!賃金は・・・無給でも構いません!」


「え?無給・・・?!」


弁護士のジョンは耳を疑った。


「本気で言っておられるのですか?無給なのどと・・。」


「ええ。そうです。住む場所と、食事がえられるのであれば・・・賃金などいりません。スカーレット様のお傍にさえいられれば・・。」


「ブリジット・・・何を言うの?貴女の気持ちは嬉しいけれど・・そんな事は駄目に決まっているでしょう?」


スカーレットはブリジットに声を掛けた。


「ええ、そうですとも。ブリジット様。いくら住む場所と食事を提供していただいても・・お金がなくては生活が困窮します!無理ですよっ!」


アーベルも必死で止める。


「ですが・・・こんな状態のスカーレット様を・・たった1人で見知らぬ土地・・見知らぬ貴族のも途へ行かせるわけにはまいりません。」


ブリジットは静かに言う。すると・・・。ジョンが口を開いた。


「分かりました・・・。何とか私がチェスター家に掛け合ってみましょう。事情を説明すれば・・先方も理解を示してくれるかもしれません。・・・よろしいでしょか?スカーレット様。」


ジョンの言葉にスカーレットはうなずく。


「ええ・・・。私は少しも構いません。むしろ・・・事情を知っておいてもらった方が・・・。」


「スカーレット様・・・本当に公にしてしまって構わないのですか?この事が世間に知られるようになり・・・のちに仇となり・・ど、どこにも嫁ぐことが出来なくなってしまったとしても・・?」


ブリジットは声を震わせながら言う。するとスカーレットは悲し気な笑みを浮かべた。


「ブリジット・・・。男性恐怖症になってしまった私が・・・誰かの元に嫁げると思う・・?い、今だって・・こ、この場に立って話をするのも・・怖くて怖くて逃げだしたい位・・なのに・・?男性が近くによって来るのも・・ましてや触れられるなんて事・・・考えただけで恐怖で・・気を失いそうなのに・・?」


いつの間にかスカーレットの目には涙が浮かんでいた。


「私には・・もう結婚は無理なのよ・・。一生独身で・・・生きていくしかないの。翻訳の仕事なら・・女性が1人で仕事をして食べていけるのは可能でしょう・・?」


「スカーレット様・・・。」


いつの間にかブリジットの目にも涙が浮かんでいた。アーベルもうつむいている。

ジョンは沈痛な面持ちでスカーレットを見ていたが・・やがて口を開いた。


「承知致しました。明日・・・すぐにでもチェスター家に赴き・・直接お話してきましょう。」


「はい、どうぞよろしくお願い致します。」


スカーレットは深々と頭を下げるのだった―。





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