第1章 39 男性恐怖症
まんじりともしない、それぞれの夜が明けた―。
「全く・・・今朝は一体どうなっているのかしら・・・。」
アグネスは1人、誰も同席する人物がいないダイニングルームで朝食を取っていた。
「あれほど!朝食はみんなでと!言い聞かせておいたのにっ!」
アグネスはイライラしながら乱暴にフォークとナイフを使ってクレープを食べていた。そしてそんな様子のアグネスをうんざりした目で見つめている今朝の給仕を務めるように命じられた2人のフットマン。
(はぁ・・・全く、勘弁してほしいよ・・・・)
(なんで俺たちが今朝に限ってこんな役をやらなくちゃならないんだ・・。)
アグネスの左右に立つフットマンたちは・・互いに視線を合わせて、心の中でため息をついた。
「ああ!もう!イライラするっ!」
ついにアグネスは首に巻いたナフキンを外し、テーブルの上に叩きつけた。その様子に思わずぎょっとするフットマンたち。
「何っ?!あんたたち・・・何か文句でもあるのっ?!」
アグネスはヒステリックに2人のフットマンを交互に睨みつけた。
「い、いえ・・・・。」
「文句など・・・とんでもありません・・・。」
震えながら返事をする2人をフンッとアグネスは鼻であしらうと、ガタンと乱暴に席を立ち、ツカツカと大股でダイニングルームを後にした。
(スカーレットッ・・・・!今に見ていなさよ・・・っ!)
アグネスもすでに苛立ちをスカーレットに向けていた―。
****
その頃、スカーレットはテーブルに向かい、ぼんやりと窓の外を眺めていた。テーブルの上には手つかずのサンドイッチが残されている。
「スカーレット様・・お食事・・召し上がらないのですか・・?」
ブリジットは心配そうに声をかけてくる。
「ええ・・・ごめんなさい、ブリジット。少しも食欲がわかないのよ・・。」
そしてスカーレットは自分の唇にそっと指で触れた。唇には・・・アンドレアが自身の唇を押し付けてきた昨夜の生々しい感触が残っている。呼吸が止まるほどの深いキスに、無理やり口を開けさせられて、侵入してくるアンドレアの熱い舌・・・。
「イヤアアアアッ!」
途端にスカーレットの頭の中に蘇ってくる恐ろしい記憶―。
「どうされたのですかっ?!スカーレット様っ?!」
突然頭を抱えて叫ぶスカーレットに驚いたブリジットは彼女に駆け寄り、強く抱きしめた。
「スカーレット様っ!落ち着いて下さいっ!」
しかし、スカーレットにはブリジットの言葉は耳に入ってこない。
「イヤッ!イヤッ!」
髪を振り乱して泣き叫ぶスカーレットに、騒ぎを聞きつけたアーベルが飛びこんできた。
「どうされたのですかっ?!」
すると・・・。
「キャアアアアアッ!!」
スカーレットはアーベルを見た途端、絶叫し・・・気を失ってしまった。
「「スカーレット様っ!!」」
アーベルとブリジットは同時に叫んだ―。
****
「え・・?男性・・恐怖症・・?」
ブリジットは往診に来てもらった女医の話に目を見開いた。
「ええ、そうですね・・・。私はまだ実際に患者様と直接お話はしておりませんが・・症状から察するに、無理やり男性に襲われそうになった恐怖から・・すべての男性に対して恐怖心を抱くようになってしまったようですね・・。」
白衣に眼鏡姿の女医はベッドで眠っているスカーレットを見つめながら言う。
「そ、そんな・・・一体どうすれば治せるのですか?」
「そうですね・・・。まずは今は出来るだけ男性との接触を避け・・カウンセリングを受けるしかないですね・・。私の方で女性医師のカウンセリングを探してみますので・・まずは患者様は出来るだけ男性から引き離した生活をさせて下さい。」
「はい・・・分かりました・・・。」
ブリジットはうつむきながら返事をした―。
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