　アーベルはアンドレアの部屋にすっかり憔悴しきった彼を連れてくるとソファに座らせ、自分も正面の椅子に座ると尋ねた。

「アンドレア様・・・一体どういうおつもりですか？」

「・・・・。」

しかし、アンドレアは俯いたまま口を閉ざしている。

「黙っていては何も話が出来ません。何故スカーレット様にあのような不埒な真似を働こうとしたのですか？これは・・・れっきとした犯罪、婦女暴行罪に当たりますよ？」

「そんな・・っ！婦女暴行罪なんて・・・っ！」

この時になって、アンドレアは初めて顔を上げた。彼の顔は酷く青ざめ・・髪は乱れ切っていた。

「僕は・・・ただ・・スカーレットを・・・。」

「・・・無理矢理ご自分の物にされようとしたわけですね？」

アーベルのどこまでも冷たい口調はアンドレアの心を凍りつかせた。

「僕は・・・まさかスカーレットがあんなに・・・。」

「あんなに拒絶されるとは思わなかった・・とでも言うつもりでしたか？」

するとアンドレアは黙って頷く。それを見たアーベルは深いため息をつくと言った。

「大体・・・アンドレア様は本日エーリカ様と挙式されたばかりですよね？その方が何故花嫁を放ってスカーレット様の元を訪ねられたのですか？もうスカーレット様とアンドレア様は・・・義理の御家族なられたのですよ？もう婚約者では無いのです。スカーレット様を最初に裏切ったのは・・・他ならぬアンドレア様なのですから。」

しかし、アンドレアはアーベルの話が聞こえているのかいないのか、うわごとのように呟いた。

「スカーレットは・・・今、どうしている・・。会いたい・・彼女に・・・。」　

その言葉にとうとう我慢が出来ず、アーベルは声を荒げた。

「会えるはずが・・・いえ、会わせる訳にいかないのはお分かりになるでしょうっ？！」

「！」

アーベルのあまりの剣幕に、アンドレアは目を見開いて彼を見た。

「な・・何故？」

「何故？それを貴方が問うのですか？貴方は眠っているスカーレット様の部屋に忍び込み､無理やり襲ったのですよ？そんな事をされればどんな女性だって怖がるに決まっているでしょう？！お気の毒なスカーレット様は・・震えが止まらずブリジット様から離れられずにいます。貴方の浅はかな・・・自分勝手な行動で・・スカーレット様に一生消えない心の傷を作ってしまったのですよっ？！今のスカーレット様には・・私だって同じ部屋にいる事が出来ません。男性を見るだけで・・悲鳴を上げてしまうのですから・・・！」

アーベルは悔しげに言う。アーベルがこの屋敷に使用人として引き取られてきたのは彼が13歳、スカーレットが3歳の時だった。10歳年の離れたスカーレットを自分の妹の様に大切に見守って来たのに・・・その関係がアンドレアのせいで一瞬で崩れ去ってしまったのだ。先程アーベルはスカーレットの事が心配で傍に寄ろうとした時・・彼女はまるで気が狂ったように泣き叫び、アーベルはその場を離れざるを得なかったのだ。

（ブリジット様は・・・今はまだスカーレット様は混乱しているだけだから明日になれば大丈夫だと言って下さったが・・・・そんな保証はどこにもない・・・っ！）

アーベルは・・目の前のアンドレアが憎くてたまらなかった。リヒャルト家を奪ったあの憎きアグネスの娘、エーリカの誘惑に負けて彼女を抱き・・スカーレットをあっさり切り捨てたのだ。挙句に自分の結婚式の夜に・・・新妻を残し、あろう事か就寝のスカーレットを襲うとは・・・。

「アンドレア様・・スカーレット様は・・来週にはこの屋敷を追い出されてしまいます・・。スカーレット様がこの屋敷から去るまでは・・・金輪際、姿を見せないで頂こうっ！」

アーベルは憎悪の目でアンドレアを睨み付けた―。