第1章 2 面会
ヴィクトールの話は続く。
「ええ・・・。実は数日前にアグネス・マゼンダという女性が娘を連れて警察署へ飛び込んで来たらしいのです。滞在先のホテルで婚約者が突然行方不明になったので捜索して欲しいと・・・・。それで100人体制で捜索に当たっていたところ・・届け出があって3日目に運河に身元不詳の遺体が上がったそうです。それで着用していた洋服から・・旦那様だとアグネス夫人が警察に伝えたらしく・・。」
「な・・何ですって・・?そ、それでは・・本当に旦那様かどうか・・・分からないと言う事ではありませんかっ?!」
ブリジットは興奮気味に声を荒げた。
「そうなのです・・・。それで・・完全に身元を鑑定できないので・・遺体を引き渡すことは出来ない・・と言われました。」
「そ、そんな・・・。何て酷い・・・。」
「そこで私は『ベルンヘル』に赴こうと思います。」
ヴィクトールの言葉にブリジットは驚いた。
「ほ、本気ですか?ヴィクトール様!」
「はい、本気です。どうか・・・スカーレット様の事よろしくお願い致します。明朝すぐに出発しようと思います。では・・準備がありますので失礼致します。」
ヴィクトールは頭を下げると、ブリジットに背を向けて廊下を歩き去って行った。
「ヴィクトール様・・・お願い致しますね・・・。」
ブリジットはヴィクトールの背中に向けて、そっと呟くのだった―。
****
翌朝―
カーテンの隙間から眩しい朝日が差しこみ、スカーレットの顔を照らした。
「う・・んん・・・。眩しい・・。」
スカーレットは瞼を擦り・・ベッドの上でパチリと目を開けた。ゆっくりと身体を起こし、頭がズキリと痛んだ。
「頭が痛いわ・・・。」
頬に触れると、乾いた涙の跡が幾筋も残っている。
「私・・・泣きながら眠ってしまったのね・・・。お父様・・・。」
再び、スカーレットの目に涙が浮かび・・膝を抱えて顔をうずめた時にノックの音が響き渡った。
コンコン
「スカーレット様・・お目覚めでしょうか・・・?実はアンドレア様がいらしているのですが・・。」
ドアの外側からブリジットの声が聞こえて来る。アンドレア・・・その名前にスカーレットは反応した。
「え・・?アンドレア様が・・・?」
「はい、さようでございます。どうされますか・・・?」
「会う・・会うわっ!」
(アンドレア様が・・・来て下さったっ!)
アンドレアに慰めて貰いたい・・・!そう強く願ったスカーレットはベッドから起き上がると扉を開けた。そこにはブリジットが心配そうな面持ちで立っていた。
「スカーレット様・・・。」
「婆や・・アンドレア様に会いたいから・・手伝ってくれる?」
スカーレットは弱々しく微笑んだ。
「は、はい・・・お任せください!」
ブリジットは頭を下げるとスカーレットの部屋の中へと入って行った―。
****
日差しが差しこむ薔薇の庭園が見渡せるサンルームでアンドレアはガーデンチェアに座っている。彼の前には丸テーブルがありカップに注がれたコーヒーが乗っている。アンドレはコーヒーを飲みながら婚約者のスカーレットが現れるのを待っていた。
「スカーレット・・・。」
アンドレアの元にスカーレットの父親の訃報が飛び込んできたのは今朝の出来事だった。ヴィクトールから電話がかかって来たのだ。
直接電話で話を聞いたアンドレアはあまりの突然の出来事に言葉を失ってしまった。そしてヴィクトールの達ての願いで、スカーレットを慰めて貰いたいと依頼されたからであった。しかし、頼まれなくともアンドレアはスカーレットの元を訪ねるつもりであった。何故なら彼女はアンドレアにとって大切な女性であったからである。
「スカーレット・・・。」
アンドレアは婚約者の名をそっと呟いた―。
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