夏目「送籍」

 夏目漱石「吾輩は猫である」(青空文庫)に次の一文がある。


『せんだっても私の友人でと云う男がという短篇をかきましたが、誰が読んでも朦朧として取り留めがつかないので、当人に逢って篤と主意のあるところを糺して見たのですが、当人もそんな事は知らないよと云って取り合わないのです』(位置№4219/8742)


 送籍が、漱石であることはすぐにピンとくる。

 では、なぜ、送籍という漢字を選んだのか?

 それは、送籍の意味を調べると、合点がいく。


送籍:旧民法で、結婚・養子縁組などにより、その人の籍を相手方の戸籍に送り移すこと。


 ここで、漱石が養子に出されたことを知っていると、漱石と送籍のつながりが見えてくる。


『生後すぐに里子に出され、生家に戻った直後また養子に出される。ここでも養父母の不和が生じたため、籍は養家に残したまま実家に引き取られた』(「日本歴史大事典」夏目漱石の項)


 送籍を選んだほかの理由があるかもしれないが、上の考えで問題ないように思う。

 小説の中に自分の変名を出して、作品にひねりをきかせているのだが、実はもうひとひねりしてある。



 作中で送籍が書いたとされる「一夜」という作品は何なのだろう?

 これは、漱石が実際に発表している作品で、本文にある「誰が読んでも朦朧として取り留めがつかない」という言及は、実際の世評であった。

 読んでみると、確かに取りとめのない話なのだが、一読の価値はある。

 なじみのない漢字が多くて私は苦労したが、短い作品で、青空文庫で読める。


 「一夜」の中身には触れないが、カクヨムでよく読んでいる安良巻祐介さんの作品の中に、雰囲気が少し似ている作品があった気がする。

 ということを、読んでいる最中に思った。

https://kakuyomu.jp/works/16816452218829335473

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