第三十八話 兵器の目的
「とある兵器? アオイ先生は破壊するとは言ってなかった気がしますが」
メイフェアが怪訝な顔をしながら聞いた。
「そうですね。ですが破壊します」
ミキの表情は相変わらず読めない。
「それはワイズ主星評議会が一万年のあいだ放置していたものです。アオイ先生はコントロールするつもりですが、ワイズ主星評議会が手をこまねいていたものを操れるとは思われません。なので、破壊します。それでは、みなさん、どうしますか」
ミキのしゃべり方はどこまでも淡々としていた。
「どうしますかって言われても、ねえ」
ニココは首を傾げた。
「アオイ先生がその兵器とやらを操るよりは破壊しちゃったほうがマシな気はするけど」
ニココはもはやアオイ先生にみじんの信頼も寄せていない。
「その兵器は人の精神に作用すると聞きましたが。もしかしてその兵器は……戦争を抑止しているのでしょうか? だとしたらそのままにしておいたほうがいいのかもしれません」
メイフェアがミキに逆に問いかけた。ケンタウリ人を介しているという星々をまたいだマインドコントロールなどという壮大な陰謀論には未だ半信半疑のままだ。
エトアルが口を挟んだ。
「いや、それがあることで、戦争はむしろ引き起こされたか、あるいは引き起こされかねないのかもしれん。ワイズは基本的に他の星に無関心だ。アオイ先生が何を考えているのかまったくわからないのには同意するが、善意で動いている可能性もある」
「あらあら。こんな扱いを受けてもアオイ先生の肩を持つんですの?」
メイフェアが疲れ切った顔のエトアルを横目で見た。
「……奴隷扱いされていることを否定はしない。だが、本国がこの船の技術を手に入れられるのならそれは非常に重要な星間外交上のアドバンテージになる」
「つまり、アオイ先生に協力することで自国の軍事力が強化されるためなら奴隷になってもいいってことかしら?」
「わたしたちは軍人だからな」
エトアルはメイフェアと議論する気はないようだ。メイフェアも、つまらなさそうに話を終えた。
その場の空気を変えようと思ってか、リュンヌが妙に明るい声で割って入ってきた。
「でも、本当に、この船はすごいですよ! だって、今まで考えたこともないでしょう。テレキネシスで船を動かすなんて。効率よく使う回路があるだなんて! もし本当にルーマンのみんなでワープしたんだとしたら」
リュンヌはまくしたてようとしたが、最後まで言い終わらず、ふっと意図が切れたように崩れ落ちかけた。ニココがすばやく肩を手で持ち支えた。
「黒川さん、どうしたの? だいぶまいってるみたいじゃん」
「あ、ありがとう」
リュンヌの疲弊は他のルーマンに比べてもひときわひどそうだった。
「だから休めと言っている」
エトアルは不愛想に気遣った。
「少佐、まだやれます」
「ダメだ、中尉。休め」
エトアルは有無を言わさない口調で命じた。
リュンヌが黙ると、エトアルはため息をついた。
「と、まあ、こんなわけだ。十人のルーマン人がどれだけ、いつまで使えるのか、アオイ先生は計算しているところだろう。いや、破壊のためにパワーを貯めているのだとしたら、津川先輩が計算しているのか? 破壊したがっているのは津川先輩のようだからな」
エトアルはミキを睨んだ。だが、ミキはそ知らぬふりだ。
「ですが、いったいどうやって? この装置もアオイ先生のコントロール下にあるのでは」
メイフェアが訝しげにミキを見つめた。
「数値を少し変えただけ。ルーマンのみなさんには申し訳なく思ってます」
ミキはアオイ先生をうまく誤魔化すだけの能力を持っているということなのだとしたら、人間離れしている、そう九重は思った。プリンセス科の二年生は只者ではない。それに、さっきから九重に視線を送っているかんじがしていた。
「津川先輩は、わたしたちに協力してほしいんですか、どうなんですか。後輩任せはよくないですよ」
ニココが不審そうにミキを睨みながら問いかけた。
「それはあなたたちが選ぶことです」
「ちょ、だから」
ニココがなおも突っかかろうとするのを九重は止めた。
「津川先輩は、おれたちに協力してほしいとは言えない。だが、その兵器を操ろうとしているアオイ先生と違ってそれを破壊したい。ということですよね」
「そうです」
「わかりました。おれは協力します。だから、アオイ先生を誤魔化すだけの先輩のスキルで、ソラを探してくれませんか。ケンタウリのような耳で、えと、今はまた人間に戻っているのかもしれませんが」
九重は自分でも何を言っているのかわからなかったが、ケンタウリとしてシャトル乗り場で別れたソラが急に気にかかったのだ。
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