問に答えなし
芽依との話を終えた私は、季舞ララの配信を途中から視聴する。
様々な生物をデフォルメ化したようなパーツに彩られた美少女は、今日も快活な喋りをみせていた。
話題は最近買った物について。今はまっている音楽について。友達と遊びに行った事について。雑談配信ということもあり、当たり障りのない内容だった。
誰もが持ち合わせている話題を、視聴者が退屈しないように話す技術は流石の一言だ。あるいは、季舞ララの持ち合わせているキャラクター性によるものだろうか。
しかし、季舞ララの正体がこの研究所に隔離されている不死の実験体である事を知っている私には、それらの話題が全てデタラメだと察する事ができた。
あたかも普通の十代の少女であるかの様に振る舞う季舞ララ。恐らく、SNSや動画サイトを巡り、普通の少女の生活を想像して話をしているのだろうが、生まれながらに不死の実験体として隔離される生活を強いられている彼女の目には、それらは一体どのように映るのだろうか?
『それじゃあ、今日はそろそろ開きにしよっか。みんなオヤスミー! いい夢みろよー』
季舞ララの配信が終わる。それと同時に、ナユタが私のモニターに姿を現す。
「あ、蓮さんもララちゃんの配信見てたんだ~」
「ああ。途中からだけどな」
ナユタは季舞ララの正体を知らない。知る必要も無いだろう。ナユタ自身にも言える事だが、Vtuberという匿名性が維持された世界で活動しているのだから、わざわざ中の人の素性を広めるのは倫理的によろしくないだろう。
それよりも私はナユタに話さなければならない事がある。彼女の祖父に関する事だ。
「なぁ、ナユタ。今度この研究所に
「……えっ? おじいちゃんが?」
「それで、俺は会う事になったんだけど、ナユタはどうする?」
正直言って、この質問をナユタに投げかけるのは苦痛だった。ナユタは生前、
しばらくの間、沈黙が流れる。アバターからは細かな表情が読み取れない。私はナユタの返答を待っている間、この状況を作り出した芽衣に対する恨み言を心の中で呟いていた。
芽衣本人は私の向かいのデスクで、何かの書類を書き上げている。その表情は私と違い生き生きとしている。どうやら、組織の上層部に直接根回しができる事が嬉しくて仕方がないらしい。
ならば自分で直接尊師に会えば良いと思ったのだが、どうやら私を差し向ける事で上層部からの評価を上げておきたい思惑があるのだとか。まったく、悪知恵の働く女だ。
「……ごめん、ちょっと考えさせて」
ナユタが控え気味に言う。ああ、これは会わないパターンだな。
「分かった。もちろん、無理に会わなくてもいいからな。京爺さんには俺の方から適当に言っておくから」
「うーん……私は無理してないけど、おじいちゃんがどう思うかなって」
「どうって言うと?」
「いやほら、一応私は死んじゃったから。今の身体はこれしかないし。おじいちゃんからしたら、二次元のアバターが『おじいちゃん久しぶり、孫の
この話を聞いた私は、やはりナユタは優しいなと思った。優しすぎるがゆえに、あれこれと余計な事を考えてしまうのだ。
「ナユタは京爺さんに会いたい?」
「……わかんない」
「そうか。それじゃあ京爺さんが来るまでに、会いたいか会いたくないかだけ考えておいてくれ。そんで、会いたければ会えばいい。嫌なら無理しなくていい。簡単な話だろ」
「えっ、でも……」
「変な気遣いなんて必要ない。ナユタは好きに生きたらいいんだよ」
再びナユタは沈黙してしまう。私に対しては「Vtuberをやりたい!」と我儘を突き付けてきたというのに、どうして肉親である祖父にそこまで気を使うのだろうか。
やはりナユタが京爺さんに対して抱く感情は複雑なものなのだろうか。
「分かりました。考えておきます」
どこかぎこちない様子でそう言うと、ナユタのアバターは私のモニターから消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます