エンドレス・ゲームの真相:その二

 鉢数が増えた分、一年目の冬とは比べものにならないほどの、使用済みの土の山───予測はしていたものの、その量は想像以上だった。

 新しいバラ専用土を準備しているうちに考えていたのは、毎年毎年この量の土を購入するのは、あまりにも経済的負担が大きい。一応、前々から調べて、『土の再生・再利用』を少量ずつ試みていたが、いよいよ本番の時が来たのである。

 力強く決心してみても、ついつい心が折れそうになる廃土の山───いやいや、それでも再生出来るのであればやらなければ、この廃土は不燃ゴミとして廃棄するか、庭の片隅に埋めるしかないのだから。


 植え替えが終わって、取り敢えず使用済みの土を避難&保護をし、気持ちを立て直すのに一ヶ月ほど───ちょうど古い土がほどよく乾き、天気が良い日を見計らって、作業を開始する。

 実験を試みている間に、それなりの道具と資材は揃っていた。最初の作業はふるいに掛けることなので、篩はすでに準備済み。あと、コンクリートをねる勢いの大きさの特大型平パットが二つ。片方に使用済みの土を入れ、もう片方に篩を掛けた土を入れる。

 大量の土を根気よく篩って出て来るのは、まずは最も大きい鉢底石、次に原型を保っている赤玉土。その二つは再利用が可能な為、別に用意した器にそれぞれ放り込んでいく。土の再生が可能な部分は、篩の目を抜けて下に準備したパットへ、そうして網の上に残るのは───切れた根っ子に枯れた葉っぱ、市販のバラ専用土の中に通気性の為に入れられているヤシ材───までは想像の内だった。問題はだ。

 『その他』に関して、多少の心の準備は出来ていた。土を交換する為に古い土を取り出した時に、すでに色々出て来ていたからだ。

 最も湿り気の多い鉢底石の周辺に、一mm~一.五mmほどの無数の白い卵・正体不明。素人生き物マニアの私でも、さすがにすべての生き物の卵や幼体・さなぎの姿を知っているわけではない。その謎の卵は、あまりの数の多さに排除するのを諦め、鉢底石ごと日向ぼっこをさせたので、さすがに死滅したと推測される。それに、コロコロに太った甲虫類の幼虫───これは大きさからいって、カナブンの幼虫と推測された。実家の裏にクヌギの雑木林があった頃は、コクワガタぐらいはいたが、雑木林が無くなってからは見なくなったので、おそらく間違いではないだろう。その時、関東方面から帰省していた中学生の甥っ子に、「ほらほら幼虫が出てきたよ」と掌に乗せて見せてみたが、都会っ子の甥には刺激が強かったようで逃げられてしまった。甲虫類の幼虫は根を食い荒らすのでバラにとっては害虫なのだが、無闇に死なせたくはないので、裏庭に小さな穴を掘り、腐葉土を敷き詰めて埋めた。運が良ければ生き延びたことだろう。

 そんなこんなで心の準備をしてからいどんだ篩掛けだったので、網の中に残った『その他』に驚きは少なかった。ただひたすらに興味深かっただけである。

 謎幼虫の抜け殻・生きているかどうかも不明な謎蛹、さすがに蛇が脱皮した皮があったことには少し驚いた。「まだこの近辺にいたんだなぁ」というところだ。昔は、シマヘビもマムシも、メカ的要素を感じる巨大ムカデもよく居たが、近隣が住宅化した最近では目撃することの方が少ない。余談ではあるが、抜け殻の主だと思われるシマヘビは、私が目撃した折にはまだ二十cmほどの子供で、どうやらうちの庭のどこかで暮らしているらしく、時折、箱入り育ちの我が家の犬&猫をフリーズさせているようだ。これといって害がなく、元気であるなら無問題モウマンタイ


 そうやって、様々な発見をしながら篩分けが終われば、次は消毒作業である。消毒作業にも幾つか方法があるので、土が大量にあるのをいいことに、二つの方法に分けてやってみた。

 一つは単純なやり方で、黒いビニール袋に適量の土を入れ、水で充分湿らせてから日向に置く。時折水を足し、陽に当たっている場所を変えながら、長い時間を掛けて雑菌を蒸し焼きにするのだ。夏場では一週間から十日、冬であれば一ヶ月ほど時間が掛かる作業だ。メリットはコストが掛からないこと。デメリットは時間が掛かり過ぎることと、土を入れる分量を間違えればビニール袋が破損することである。

 もっと短時間で済む簡単な方法は、ずばり熱湯消毒。メリットは時間が掛からないこと。デメリットは大量の土を消毒するだけの熱湯を個人家庭で準備することが難しいこと、加えて熱湯に耐え得る土を入れる器を準備することが難しいことである。

 それでも、一応両方をやってみたのだ。

 

 ちゃんと出来たかどうかは不明だが、消毒が済んで待っているのは、ブレンドだ。

 篩を掛けた後の土は、一年の間に栄養を吸い尽くされてさらさらの状態になっている。ここに栄養分となるものを足して水分を与え、充分に混ぜ合わせてから密閉容器で円満に過ごしてもらう。それもこれも、本来の健康的な土に存在する善玉菌を増やし、団粒構造を再構築してもらう為だ。

 ブレンドも、二つの方法でやってみた。

 一つは、土の再生材を使う方法。再生材には必要なものがすべて入っていて、混ぜ込んでからは待つだけでいい。ただし、やはりコストパフォーマンスが悪い。

 もう一つは、自らブレンドするという方法。だいたいは、腐葉土を中心に、馬糞や牛糞、油粕、苦土石灰などを混ぜ、やはり水分を含ませて、ぬか漬けのように定期的に混ぜていく方法。問題は、どのくらい混ぜた方がいいのかを調べてみても、『適量』程度の説明しかなされていないことだ。


 適量ってなんだっ!

 料理をする時の塩少々・砂糖少々とどう違うんだっ!


 料理は決して苦手ではないが、圧力鍋一杯に煮込み料理を作る場合と、特大型平パットに混ぜ込む量では、基本になる量が違い過ぎる。つまり、最終的には目見当になってしまうということだった。


 結局、そうやって手間暇を掛けた土の再生が上手くいったのかどうか、未だに良くは判らないまま、安全策込みで市販のバラ専用土も混ぜながら使っている。

 エンドレス・ゲームの真相───それは、これらの作業がバラ栽培を続けている限り、毎年続くということだった。



【土の再生・再利用について】

 これだけ手間暇の掛かる土の再生・再利用だが、本来再生させた土は連作障害を起こしやすい為、同じ種類の植物には使わない方が良いとされる。個人的には、主に冬の寄せ植えに再生土を使い、バラの方には購入した土に混ぜ込んで使っている。それが、良いことなのかどうかは、まだ結論が出てはいない。

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