2話 消えた仲間の行方

 「なにが起こるか、わからないから、うしろにいて。」って、クロウに言われて。


俺も、奈月なつきも、クロウのあとをついてた。



 突然、クロウが立ちどまった。どしたのかな?って、先を見たら。


天井から、蜘蛛くもが、ぶら下がってた。



 そんな時。


「アザゼルと、プロメテウスのかたき!」って、暗がりから、急に、ハデス伯父おじさんが飛び出してきて。クロウのスカーフ、奪われた。


「ハデス!?」って、驚くクロウの顔を見て、ハデス伯父さんは、高笑いしてる。


「この瞬間を、待ってたぞ、クロウ!いつか、油断すると思ってた!」


「見張られてたの!?ぜんぜん、気づかなかった!」


「気づかれるか!何年、おまえとバディ組んどると思ってんねん!」



 やっぱり、ハデス伯父さんだけじゃなかった。耀ようもいた。


俺も、奈月も、はさまれた!



「見逃してくれるよね、ハデス伯父さん?」


「ごめんな、ヘパイストス。ゲームやから、手加減なし!」


「ねぇ、耀くん?僕ら、バディの仲じゃない?」って、奈月も、言ってたけど。


「バディだからこそ、俺が狩る!覚悟しろ、奈月!」って、耀に言われてる。



 ていうか、トッティー、静かだな……って思ったら。


いつのまにか、トッティー、いなくなってた。


「あれ?トッティー、どこいった?」って、言ってるあいだに、


すぐ隣にいた奈月も、消えてた。


「奈月ー!?」



 うそだろ。こんなことってある!?



 ハデス伯父さんと、耀も、焦ってる。


目の前で、人がふたりも消えて、ゲームどころじゃなくて、一時休戦になった。



 「やっぱり……。」クロウが、スマホの地図を見て、つぶやいた。


「ねぇ、エクソシストの地図も、確認して。移動してる点がない?」


言われて、ハデス伯父さんも、スマホを見た。


 クロウの言ったとおりになってた。


 赤い点と黒い点が、ひとつずつ、移動してる。


この赤い点と、黒い点。絶対、奈月と、トッティーじゃん。


ていうか、ふたりが移動した場所って。点が、めちゃくちゃ、集中してる所だった。


今、まさに、俺たちが行こうとしてた場所じゃん。



 とにかく行ってみよう!って、いそいだら。やがて、礼拝堂に出た。


なにここ。地下に、こんな遺跡が、隠されてたのか……?



 見上げたら、天井に、超デカイ蜘蛛の巣が、張ってた!


アレスも、トッティーも、奈月も、巣に、からまってる!


ていうか、見かけないって、思ってた人たち。全員、蜘蛛の巣に、からまってるー!



 「逃げろー!!ヘパー!!」



 目が合った途端、アポロンちゃんに、怒鳴られた。


なにがなんだか、わからないうちに。ハデス伯父さんに、つきとばされた。



 俺をかばったせいで、ハデス伯父さんが、蜘蛛の糸に、からまっちゃった!


すっごい、ネバネバで、助けられなかった。


耀と、ふたりがかりで、がんばってるけど、とれない……。



 「もうええから、逃げ!」


ハデス伯父さんに、怒鳴られた。



 ドスン!って、床が、きしんだと思ったら、


信じられないくらい巨体の蜘蛛が、こっちに向かってくる。



 クロウが、変身の魔法を解いて、ドラゴンの姿に戻って、応戦した。


クロウのブリザードで、礼拝堂が凍る。



 その時。



「あちゃー……。よりにもよって、アラクネが出てきちゃったのか。クロウに、悪いことしちゃったなー。」


声が聞こえた方を見たら、知らない男がいた。


細くて、背が高くて。まるで、吸血鬼みたいな格好かっこうしてる……。



 その銀髪の紳士が、指を鳴らすと。蜘蛛を、すっぽり覆い隠すほどの、巨大な魔法陣が結ばれた。


トングみたいに盛り上がった床が、蜘蛛の巨体を、つかまえた。


「アラクネ。奈落の底へ、おかえり。」


男の人が、そう言った瞬間。魔法陣が、赤く変わった。


そして、蜘蛛は、地の底へ、沈んだ。



 男の人が指を鳴らすと、今度は、風魔法が発動して。


風のやいばが、みんなをしばってた蜘蛛の糸を切った。



 「あ……あなたは……。」ハデス伯父さんが、目を見開いてる。


ふりかえったクロウも、信じられないって顔してた。



 なに?だれなの、この人……?



「お父さん?」



 クロウの発言に、耳を疑った。



 お父さん!?この人、クロウのお父さんなのー!?


そういえば、きいたことある。


クロウのお父さんは、冥界の底にいる奈落だって。


 『タルタロスが、本体から思念を切り離して、奈落からあがってきたのは、ティタノマキアの時やったっけ。それ以来、人の姿のタルタロス、見たことないけどなー。』


って、父さん、話してたっけ。



 戦争してた時、俺、まだ生まれてなかったから。


クロウのお父さんと、こうやって会うのは、初めてだった。挨拶したら。


「はじめまして……?そっか。僕は、奈落の底から、ずっと見てたから、君のこと知ってたけど。君にとっては、初めましてだね!よろしく!」


って、言われた。


クロウのお父さんなだけあって、気さくな人だった。



 「ヘパイストス、こっち向いて。」って、ハデス伯父さんに、言われた。


ふり向いた途端、「ごめんな。」って、伯父さんに、あやまられた。


こめかみの擦り傷、気づかれた。


「俺が、さっき、つきとばしたからやろ?余裕がなくて……。」


「こんなの平気だよ。ありがとう。伯父さんが助けてくれたから、蜘蛛の糸かぶらずに済んだんやし。」



 「クロウ、おいで!」って、タルタロスの声が、礼拝堂に響いた。


「ハグしよう!超久しぶりの親子の再会、感動!」


「やめろよ。なんで、急に出てきたの?俺が、さんざん言っても、実体化しようとしなかったじゃん。」


「だって、あの時は、ティタノマキアの戦記、書いてた途中だったんだもん。神々の歴史を、後世に残すためには、誰かがやらなくちゃいけない仕事なんだ。ついに、書き終わったんだよ。長かったよ。褒めて。地上にあがるのなんて、久しぶりだから。奈落のゲートを開く時に、アンデッドが飛び出しちゃった。」


「飛び出しちゃった……って、はぁー!?じゃあ、あのアラクネは、お父さんのせい!?」



 クロウが怒って、タルタロスに、冷気を吹きかけた。


凍らされないように、タルタロスは、ジャンプしてる。


はたから見たら、ケンカしてるみたいだけど。


クロウの顔を見たら、やっぱり、うれしいんだなって、わかる。


だって、笑いながら、怒ってるんだもん。

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