第5話




 翌日、ヴィオレ伯に出会ったが、別に普段との態度の違いはなかった。

 机に向かうビヴィオレ伯の横顔を黙って見てしまう。


(なんだろう、私だけドキドキしてる……)


 そんなことを思っていると――。


「なに? あんまりじろじろ見ないでくれる?」


 どうやら彼のことをじろじろ見ているのに気づかれていたらしい。


「あ、ごめんなさい――きゃっ!」


 反射的に後退りしてしまい、いつぞやのように書物にぶつかって、私は尻もちをついてしまった。

 ヴィオレ伯は、椅子から立ち上がると、私の方に向かって歩いてくる。


「ああ、本当にどんくさいな……」


 やはりどんくさいと言われるのは怖かった。

 びくんと震えて、身体を縮こませていると――。



「本当、お前って、僕がいないとダメそうだね」



 ――私のそばに、彼がしゃがみ込んできたかと思うと、いつの間にか抱き寄せられていた。


 そうして、私の首に彼の手が伸びてきたかと思うと――。


 気づけばまた、彼に唇を塞がれていた。

 息がもれない程に深く口づけられる。


(頭がぼおっとしてきた……)


 唇が離れると、ヴィオレが私に向かってこう言った。


「ねえ、ルージュ……最初に屋敷に招き入れた時のこと、覚えてる――?」


「は……あ……えっと……」


「ねえ、ルージュのこと、ずっと俺が養ってあげるからさ……お前は俺に身体で払ってよ――」


 ヴィオレ伯の笑顔が、あまりにも人ならざるもの――それこそ人を魅了する悪魔のように美しくて――。


 私は彼に身を委ねていたのだった。




※※※




 横抱きにされた私は、そのまま彼の寝室に向かう――。


 そうして、大きなベッドの上に横たえられた。


 ヴィオレの手によって、ドレスの襟元を緩められる。


「本当、お前が熊のところから逃げてきてくれて良かったよ――危うく、綺麗なお前が汚されるところだった――」


 私の首元に彼は顔をうずめてきた。


「身体で払うの、強制じゃないからさ――やめたいなら、やめるって言って良いよ――」


 彼は一度唇を離すと、金の髪をかき上げながらそう言った。

 私は首をふるふると横に振る。

 だけど、一つだけ気になったことがあった。


「あの、ヴィオレ様――『ずっと俺が養う』っていうのは――」


「そんなの言葉通りの意味だよ。お前は、俺の下で、ずっと研究の手伝いをするんだ。そうして、ずっと俺のことだけを考えて生きてなよ――」


(それはやはり、家事手伝いとしてという意味――?)


 そんなことを考えていると――。




「ルージュ!!! ここにいるのは分かっているんだよ――!」




 まさかの予期せぬ人物が来訪したのだった。


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