第二十三話 皇宮


 季節は冬。


 十二月になり、シュライゼムの街にも雪が降り始めた。


 一週間後に二学期の期末テストがあるので、昼休みにローナ、セシル、ルートヴィヒと共に試験勉強を図書室でしている。


 とは言っても全員優秀なので苦戦する事などないのだけど。


 勉強していると後ろから声がかかる。


 「ステラ達、俺達も勉強に混ざってもいいか?」


 振り返ると、クルトと取り巻きのゼルバとカイルが居た。


 「ええ、もちろん。いいわよね、皆」


 ローナ、セシル、ルートヴィヒは頷く。


 笑顔で空いてる席に座るクルトと若干戸惑いながら座るゼルバとカイル。


 いつの間にか私とクルトが仲良くなっているのに困惑しているのだ。


 クルトはローナやセシル、ルートヴィヒにも呼び捨てで呼ぶようにと言っている。


 私達がクルトを呼び捨てにする度に、カイルとゼルバが眉をひそめる。


 クルトと仲良くなって二ヶ月経つけど、二人はまだ慣れないようだ。


 放課後、ルートヴィヒとセシルは光迅流本道場へと向かい、私とローナは寮に戻り、夕食の時間まで勉強する。


 夕食を食べ終わったら、寮の裏の林で魔法の訓練をクルトとする。


 「ステラ、お前は冬休みはどうするんだ?」


 訓練が終わり寮へと帰っている途中でクルトと話していると冬休みの話になった。


 「私は寮にいるよ。お世話になっているフェブレン邸のあるキプロの街までここから二週間かかるもの。冬休みの日数じゃ帰れないわ」


家が比較的近くの生徒達は帰るみたいだけど、私、ルートヴィヒ、セシルは帰らない。あとローナの家も遠いらしく寮に残るらしい。


 「そうか、寮に残るのか。ならもし良かったら冬休み中に城へ遊びに来ないか?」


 「城へ?」


 「ああ、ステラの話をしたら母上がステラに会いたがっていてな。どうだろう?」


 普通城に気軽に遊びには中々行けないけど、皇子のクルトがいいと言ってるし行ってみるか。


 「わかったわ。私もクルトのお母さんに会ってみたいし」


 「そ、そうか。それなら良かった」


 クルトは少し頬を赤くさせながら喜んでいる。


 冬休みはニ週間ある。


 どうせ暇なのだ。一日予定が入って有り難い。



 試験が終わり、結果が出た。


 私は魔法筆記、実技ともに一位。魔法薬学は二位でローナに負けた。エンチャントの試験は一位。総合一位の成績だった。


 皆からの羨望の視線を気持ちよく浴びながら二学期を終えた。



 今日から冬休み。



 ルートヴィヒとセシルは、冬休みの間は道場で朝から晩まで修練を積むらしい。ああ剣士じゃなくて良かった。


 暇な私はローナと一緒にこれから王都でショッピング。


 服を買ったり、魔道具を見たり、美味しいランチを食べ冬休み初日を楽しんだ。


 その後は魔法の訓練をしたり、図書室で本を読んだり、薬学の勉強をしたりして時間を潰した。



 冬休み一週間が経った頃、クルトが寮に迎えにやって来て城に向かう事になった。ローナも誘ったけど、強く断られた。なんでも城に行くと考えただけで緊張して吐きそうになるとの事。まぁ、無理強いはよくない。クルトと二人で行くことにした。


 城に入るのは世界大会の件で謁見して以来。


 あの時はゆっくりと城を見る暇なんてなかったから、改めて見るとバカでかい。


 白く荘厳な構えの城の迫力に気圧される。


 緊張している私を見てクルトが私の手をとる。


 「そんなに緊張しなくても大丈夫だ。俺が居る。さぁ、行こう」


 クルトに引っ張られて城の中へと入る。


 門の兵士はクルト皇子を見ると、にこやかに通してくれた。


 向かうのは城の庭園らしい。


 クルトのお母さんは普段は後宮に居て、皇帝以外は容易に入れないらしい。


 その為、庭園に席を設けたらしい。


 色彩豊かな広い庭園を歩いていると、庭園の真ん中でお茶を飲んでいる女性が。


 「母上、ステラを連れてきました」


 「あらあら、この子がステラちゃん? 可愛い子ね。初めまして、クルトの母のリーシェ·ヨルバウムです。よろしくねステラちゃん」


 亜麻色の髪を肩まで伸ばし、髪色と同じ色の瞳を見ていると吸い込まれそうと思う程見惚れてしまう。クルトのお母さんは絶世の美女と言っても過言ではなかった。


 クルトのお母さんは柔和な微笑みを浮かべている。私が男だったなら百パーセント求婚している。


 「初めましてクルトのお母様。ステラです、よろしくお願いします」


 「そんなに緊張しなくてもいいのよ。さぁ、一緒にお茶を飲みましょう」


 穏やかなクルトのお母さんに誘われ席に座りお茶を楽しむ。


 クルトのお母さんにはクルトが学院でどのように過ごしているかや、世界大会ではどうだったかを聞かれた。


 クルトが隠れて魔法の訓練をしている話や大会での心折れない戦い様を伝えると嬉しそうに微笑んだ。


 「そう、クルトは頑張っているのね。それにクルトをちゃんと見てくれるお友達も出来たみたいだし。この子は誰かが見てないと頑張り過ぎる所があるから心配だったの。でもステラちゃんがいるなら安心ね。これからもクルトをよろしくねステラちゃん」


 「はい、クルトが無理しないようにちゃんと監視しておきます」


 私の茶目っ気溢れる言葉にクルトのお母さんはクスクスと笑う。笑い方も上品だ。


 私とクルトのお母さんの会話を恥ずかしそうに聞いていたクルト。


 そんなクルトを二人でからかいながらお茶会を楽しんだ。



 クルトのお母さんと別れ、皇宮内を歩いていると、クルトに似た赤髪紅眼の青年がこちらに近づいてくる。


 「おやおや、薄汚い平民の血を引く下賤の者が皇宮を我が物顔で歩いているなぁ」


 クルトを汚物でも見るかの様に顔を歪ませる青年。


 「これはテルナー兄上。お久しぶりでございます」


 青年の薄汚い言葉など気にした様子がないクルトが兄上と呼んだ人物に頭を下げる。


 「貴様なんぞに兄上と呼ばれたくなどないわ!!」


 テルナーはクルトの頬を叩く。


 「なっ!? 何してんのよ!!」


 私が文句を言うと、私が居る事に今気付いたのか、顔をしかめる。


 「何だ小娘? なぜ貴様の様な平民がここに居る?」


 私を平民と決めつけたよ。まぁ、平民だけどこの態度ムカつくわぁ。


 「彼女は俺の友人です」


 「はっ。平民の友達は平民か。お似合いだぞクルト。だが皇宮に薄汚い平民など入れるとは!! 世界魔法学院大会で少し活躍して父上に褒められたからといって調子に乗るなよ!!」


 我慢の限界が来たのでテルナーに掴みかかろうとするけどクルトに抑えられる。


 「は、離してクルト!! こいつは一度ぶん殴らないと駄目よ!!」


 「な、何だ!? この野蛮な猿は!? クルトその無礼な猿を早くつまみ出せ!!」


 テルナーは私の剣幕にビビったのか足早に去っていく。


 って誰が猿だ、ウキー!!


 「なんで止めたのクルト!?」


 「いや、止めるだろ。皇族に逆らったら最悪死刑だぞ?」


 興奮している私を冷静に鎮めるクルト。


 「何でクルトはあんなに言われても怒らないのよ!! 私はクルトがあんな風に言われて悔しいのに!!」


 「まぁ、昔からテルナー兄上にはああいう風に言われてきたから馴れてるのもある。でも友達が俺の分まで怒ってくれたからな。それが嬉しくて全然怒る気にならなかった」


 本当に嬉しそうにしているクルトを見て毒気が抜ける。


 「···皇宮では皆にあんな風に言われているの?」


 「皆が皆そうじゃない。第一皇子のアルバート兄上は優しいし、アルバート兄上の母君――正妃様も厳しい所はあるが俺の事を気にかけてくれている。最近になって父上に嫌われていない事もわかったしな」


 そっか、優しく見守ってくれている人達も居るのか。


 でもあんな風に言っているのはテルナーだけではないだろう。


 私がしかめっ面をしていると、私の両頬を引っ張るクルト。


 「そんな顔をするな。おれは今楽しいんだ。ステラやルートヴィヒ、セシル、ローナ、ゼルバ、カイルという友達が出来て」


 辛い筈の本人が笑顔でいるのだ。これ以上怒るのも無粋というものだろう。


 「···何か辛い事があったら言いなよ?」


 「ああ、ありがとうステラ」


 嫌な事はあったけど、クルトと深く仲良くなれた気がして嬉しさも感じながら城をあとにした。

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