第十六話 個人戦決勝
大会三日目も終わり、個人戦は残り一試合。
明日の決勝戦だけだ。
宿へと帰ろうとしたらラダンさん達に声をかけられて天の恵亭で夕食をとることになった。
天の恵亭に入ると知っている顔ばかりが座っていた。
レヴィン選手やサイツァー選手とガラルホルンオウデン魔法学院の皆さん。
ナギさんとミズホ国魔法学院の方達。
マルト王国魔法学院の方達、バイツァール王国魔法学院の方達や他の国々の皆さんもいる。
そしてヤーバル王国魔法学院の方達の中に明日戦う予定のチェルシー選手の姿も。
「ラダンさん、これは?」
「お前とチェルシー嬢の決勝進出の祝いと明日のの健闘を願っての食事会だ。皆誘ったら快く応じてくれてな、こうして集まってくれた」
嬉しくて言葉が詰まる。
「···み、皆さん。ありがとうございます!!」
集まってくれた皆さんに頭を下げる。
「おいおい、ルートヴィヒ。堅苦しいのは無しだ。今日はパァーッと楽しもうじゃねぇか!」
ガハハと笑いながら僕を席に座らせ、店員さんに注文するラダンさん。
確かにそうだな。せっかく皆集まってくれたのだから堅苦しいのは無しだ。この時間を笑って楽しもう。
食事をとりながら、皆さんが代わる代わる祝いの言葉と明日の試合の応援をしてくれる。
ここまでしてもらったんだ。明日は良い試合をしようと決意していると、さっきまでステラと話していたチェルシー選手が近付いて来た。
「···少し話してもいい?」
身長が低いせいか上目遣いになるチェルシー選手。
「もちろん、僕も話したいと思っていたんです」
僕が笑顔で返すと微かに笑ってくれた。
「···ルートヴィヒの試合見た。···凄かった」
「ありがとうございます。チェルシーさんの試合も素晴らしかったですよ」
「···チェルシーでいい。······本当は世界大会になんて出るつもりなんてなかった。···お師匠様が出てみなさいと言ったから出ただけ。···それよりもお師匠様のもとで修行した方が為になると思ってた。···でも違った。ステラやクルトは僕に驚きをくれた。···だから明日は僕にもっと驚きを頂戴?」
「驚いてくれるかはわかりませんが、僕の全力を見せるつもりです」
「···うん、それでいい。···明日が楽しみ」
「ええ、僕もです」
その後も楽しい夜は続いた。
そして夜は明け、大会四日目。
世界魔法学院大会個人戦決勝が始まる。
『さぁ、まもなく個人戦決勝戦が始まります。解説は今日も私ミラとフェイさんでお送りします。さて先に舞台に出てきたのはヤーバル王国魔法学院一年生『小さな大魔導』チェルシー·モルフェイド選手だぁ。その小さな身体からは考えられない程の大魔法を放つ姿から今日も目が離せない!! 対するはヨルバウム帝国シュライゼム魔法学院一年生ルートヴィヒ選手!! その美しい容姿から女性ファンが急増。光の如く動く様からファンにつけられた異名は『光の君』。フェイさんこの決勝戦どうなると思いますか?』
『この対決は魔法と剣の戦いです。普通に考えれば遠距離であればチェルシー選手が有利で、近距離であればルートヴィヒ選手が有利です。しかし、ルートヴィヒ選手の素早い動きに魔法を当てるのは至難の技です。それに闘技場という限られた空間ではルートヴィヒ選手が有利に思えます。チェルシー選手にとってルートヴィヒ選手は天敵と言ってもいい存在です。動きを封じられれば勝機もありますが』
『つまりルートヴィヒ選手の勝利は決まったようなものということですね?』
『いえ、そこまで断言していません。ルートヴィヒ選手の方が有利だという話です』
『つまりルートヴィヒ選手が勝つという事でしょ? いや、勝たせます。私の応援で!! フレーフレールートヴィヒ!! 頑張れ頑張れルートヴィヒ!!』
『もう嫌だ、このアナウンサー』
暴走するアナウンサーの相手をしなくてはならないフェイさんに会場中の人が同情する中、チェルシーと僕は所定の位置で向かい合う。
そんな僕らを見て審判が試合開始の合図を出す。
チェルシーが後方にバックステップしながら闇属性上級魔法シャドーレインを無詠唱で放ってくる。
それを躱しながら身体と剣にセイクリッドレイをエンチャントする。
僕は白いオーラを立ち昇らせながら瞬歩でチェルシーに近付き背後をとる。
「
背後から剣撃を放ち勝ちを確信しかけたけど、光の壁に阻まれる。
アイギスなんて魔法は知らない。ということは···。
『なっ!? 三つ目の最上級魔法!? それも防御魔法の!?』
解説のフェイさんが興奮している。
だがその通りなのだろう。さっきから光の壁に向かって攻撃しているが、びくともしない。
僕が最速最大威力の一撃を放とうと、光の壁に守られているチェルシーから距離をとると、チェルシーはさらなる魔法を短縮詠唱する。
「
光壁で守られているチェルシーが立っている場所以外の地面が闇に染まる。
僕の下半身は闇に飲み込まれて動けない。
この魔法も知らない。つまりそういう事だ。
『四つ目の最上級魔法!? しかもルートヴィヒ選手の動きを止めた!?』
そう、見事に動きを封じられた。
この状況でチェルシーがとる行動は一つ。
「レヴァンティン」
そう、動けない僕に最大威力の魔法を放つ。
やばい。絶体絶命だ。
だと言うのに僕は冷静だ、冷静にある賭けを実行しようとしている。
ステラの試合でレヴァンティンを見てからずっと考えていた。
敵の魔法をエンチャント出来ないかって。
でも成功する確率はかなり低い。
失敗すればもちろん僕の負け。
だけど成功すれば···。
向かってくる光の大剣に手の平を向ける。
聖属性の魔力を両手に込めてレヴァンティンを取り込もうとするけど、他人の魔力だ。そう簡単に取り込める筈がない。
僕の爪は剥がれ、血が吹き出す。
「くっ、うぉぉあああっ!!」
痛みを堪えて気合で踏ん張る。
指だけじゃなく腕からも血が吹き出るけど、それでも踏ん張る。
あとちょっとだ。あとちょっとで取り込める。耐えろ僕!!
レヴァンティンの魔力が流れ込んでくる。よしっ、今だっ!!
「エンチャントレヴァンティン!!」
その瞬間僕を中心にして激しい光が闘技場を飲み込む。
光が止むと僕が纏っている白いオーラがより大きくなっていた。凄い。身体から大きな力を感じる。
そんな僕を見てチェルシーは驚いている。
「···僕の攻撃魔法をエンチャントするなんて」
だが一番驚いているのは僕だ。一か八かの賭けだったのだ。
この状態ならこの黒沼からも抜け出せる。
僕は光の壁を打ち破る為に最大威力の技を放つ為の構えをとる。
「光迅流六ノ型瞬光!!」
光が音を置き去りにし、光の壁に向かって駆ける。
光の壁は紙の様に破れ、光の一撃がチェルシーの体を貫く。
チェルシーの後方で剣を鞘に納めると同時にチェルシーが倒れる音がした。
審判がチェルシーの戦闘不能を確認し、試合終了の合図が出された。
『し、試合終了〜!! 勝者ルートヴィヒ選手!! 一時はピンチだったルートヴィヒ選手。見事大逆転!!』
『相手の魔法をエンチャントする!? そんな発想普通は生まれないし、それを成功させるとは!! 最上級魔法を四つも持っていたチェルシー選手にも驚かされましたが、その最上級魔法を利用したルートヴィヒ選手には脱帽しました!!』
アナウンサーのミラさんとフェイさんは凄く興奮している。
回復魔法をかけてもらったチェルシーが近付いて来た。
「···まさか僕のレヴァンティンをエンチャントするなんて信じられない。···こんな事お師匠様から聞いたことない。···本当に驚いた!!」
感情の起伏の少ないチェルシーが興奮している。余程驚いたのだろう。
「···約束通りルートヴィヒは僕を驚かせてくれた。···ありがとう」
「こちらこそありがとうございました。チェルシーが居なければ相手の攻撃魔法をエンチャントするなんて思いつきませんでした」
互いに笑顔で握手をする。
その光景を観た観客から拍手喝采が鳴り響いた。
こうして個人戦決勝戦は終わり、僕は優勝した。
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