番外編 魔城の一番長い休日 その7
「楽団長よお、こんな場所で一体何を探せっつうんですか。俺たち全員を駆り出してまで」
「うっさい、つべこべ言わずに探せよヴァンドラ。あんたもさっさと片付けたいだろ、全員で探した方が手っ取り早いんだ」
探しものと言ったらやっぱりここ!
魔城地下の保管庫だ!
この異世界へ召喚された俺は魔王さまの命で楽団を立ち上げる羽目になり、そんで最初にやったことは、先ずは楽器の確保だった。右も左も判らずにいた俺をスケルくんが案内してくれたのはずっと昔のような気すらする。
俺は楽団員たちをぞろぞろと連れ歩き、この魔城に攻め入ってきた人間や街やら何やらから略奪を重ねてきた武具だの財宝だのをやたらと詰め込んだ埃っぽい大広間を行ったり来たりしていた。
薄暗く、部屋の果てが見えない程の大部屋に、何重もの巨大な木棚の列が並び、まるで……まあアレだよ。レイダースの最後のシーンでアークを収めたあの場所とか、ハリー・ポッターの沢山ブツがあるあの場所みたいな感じ。判って頂きたい。
たぶん、比較的早い段階で棚は一杯になり、数々の蒐集物をきちんと陳列するのは諦められたのだろう。棚の間の通路にも無秩序に品物が散乱し、中には攻城城と思しき物騒な代物すら、棚の上にモノを乗せるための足場として置かれていた。すごい使い方してんな。
ともあれ、ちょくちょくお世話になっているこの(文字通りの)宝の山を再び訪れているのか。
それは、トロりんの話を聞いている内に、ここで見かけたとあるアイテムのことを思い出していたからだ。
そのアイテムとは、太陽の意匠をあしらった魔法のランプである。
たぶん、魔法の金細工?っつーの?とにかく黒い金属に金の魔法模様をふんだんに取り入れたシャレオツなやつだ。俺には宝飾品の目利きなんて全くできないけれども、その美しさには少しばかり気を惹かれたのを覚えている。
当時はとにかく使えそうな楽器を見つけることに集中していたし、音楽とはまっっったく関係ないのでそのままにしておいたけど。
燦燦と降り注ぐ日光を直接浴びることの出来なくとも、その代わりと言うのもおこがましいけど、太陽の意匠を施した最高のインテリアをプレゼントしてみてはどうだろう。小さい時の約束も果たせちゃうし!
という俺の心遣い……まあ、思い付きだ。
問題なのは高級品らしく、立派な黒い木箱に丁寧に収められていたことです。
それが何処にあったのかは全っく覚えてません!
「確か……黒い箱に入ってたんだよ。大きさはこれくらいの」
俺は皆へ、腕で四角を描くジェスチャーをしてみせるが、それすら正直あやふやだ。
繰り返すたびに微妙にサイズが変わっているのは楽団員の皆にもバレバレで、大いに呆れられていた。
「詫歌志よ。もっと具体的な手掛かりはないのか?例えば素材……樫か、桐か、檜……こんな場所で何だが、匂いをかぎ分けられるかもしれん」
それが判るくらい賢かったらこんなに苦労してませんよミノットさん!
あとですね、あらゆる代物を簡単に持ち上げてその辺に放り投げるその剛腕は頼りになりますけど、もうちょっと丁寧にお願いしてもいいですか。
しかし、なんだかんだ言いながらも、楽団の皆は総出でブツを探すのを手伝ってくれている。
うむ、トロりんのために頑張れ。
ただ、それが本当にプレゼントに相応しいブツだったかどうか、それも記憶違いだったらごめん。一応、先に謝っておく。
「でも、なんだかこういうのも楽しいねー!」
保管庫の上空でぐるぐるぱたぱたと旋回しているハル子が、のほほんと声を掛けて来た。その翼っぽい腕じゃモノをひっくり返すのには向いてないので、上からそれらしいものを見渡してもらっている……はずなんだけど、ちゃんと探してくれてる?
まあ楽しそうにしてくれてるのを見てるとこちらも何だかふわふわした気分になるけどもだ。
「―—あっっっつ!!あああああああ!!にぎゃああああ!」
突然、棚の反対側から、ヴァンドラのけたたましい悲鳴がして、薄闇を切り裂いた。イケメン吸血鬼の叫び方じゃない。
「ど、どうしたおい!?」
棚を回り込んで駆け付けると、腕を抑えているヴァンドラと、そのすぐ傍に十字架型の銀の槍が転がってた。なるほどそりゃあダメだ。触れると火傷しちゃうパターンか。
「ぐ、うぐぐ……」
「大丈夫か……?」
呆れてやろうと思ったが、蹲るヴァンドラはマジで辛そうだった。
両眼からは真っ赤な光が漏れ出て、牙を向いて唸っている――。
「おい、ヴァンドラ、それって――」
『血、ヲ……』
「ち?」
「血、ヲ、クレ……!!」
「うわあッ!?」
吸血鬼らしい台詞を吐いてガバっと起上がったヴァンドラが突然、血相を変えて俺に飛び掛かってきた。
でもって呆気なく押し倒された。
ヴァンドラがすごい形相で俺を睨み、口を開く。
あれお前そんなに牙鋭かったっけ……?
「って、ちょ、ちょっと!何してんだ!!」
つまり、銀でダメージを負ったので快復する為に血を求めてる、という訳だ。
馬乗りになったヴァンドラの顔が、俺の鼻先まで近づいてくる。
絹の様な銀髪が俺の顔をくすぐる。
俺が言うのも妙な話だけど相当な美青年の、整った顔立ちが迫って来る。
ぞっとする程冷たい吐息が首元に掛かる。俺を求めている――。
……いや待ってこれって結構まずいんじゃないの!?
噛まれたらどうなるんだっけ?眷属?眷属的なアレだっけ?
ヴァンドラくん、うっとりと恍惚とした表情をしてますけど。
やばい、なんかいきなり危機に陥った気がします、ぼくは!!
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