量子情報工学研究所
「…というわけで、佐伯君は現在、情報平面に捕縛されているものと思料される」
ブラックホール情報工学の権威、松戸斎苑教授は締めくくった。記者団から矢継ぎ早に質問が飛ぶ。
「紅日新聞です。つまり佐伯助教授は生存しているのでしょうか」
「生化学的な概念に限定しないというのであれば是だ。彼は自我を持ち、生存を自覚している」
「しかし、彼の遺体が実験棟で発見されています。警察は事故、事件両面で捜査していますが?」
その問いに教授は顔を真っ赤にした。「何じゃ、人聞きの悪い。佐伯君は生きておるのだ。見つかった蛋白質の塊は遺体として警察が観測しているにすぎん」
「教授、それは問題発言ですよ」
何かと人権に煩い紅日新聞が噛みついた。
「予定時刻になりましたので終了します」
研究所の職員が質疑応答を打ち切った。
「嫁瓜新聞です。あと一つだけ」
しかめ面した女性記者が挙手したが、職員は無視した。
「お願いです。1分だけ…」
食い下る記者に職員は言い放った。
「しつこいですね!あと30秒で予定の五分です」
「最後に一件だけ。すぐ済みます」
「何なんです?」
うんざりした職員の眼前で女は鬘を脱ぎ捨てた。面の皮も剥がれ、ゴムの下から異形の形相が現れる。牙を剥き、一言。
「私は誰でしょう?」
「おっ、お前は…前は…まえ…ま」
彼は言葉を失った。
五分経過。
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