忘れようとしても覚えきれない。
水原麻以
ここはどこだ?
思い出そうとしても記憶にとどめられず、覚えようとして忘れちまった。
えーとどっちだ。とにかく、忘れられない格言がある。
五分以上の短期記憶を維持できない俺だが、このフレーズだけは身体に刻まれているのだ。
神の御業か、本能か原因はわからない。どういうわけか俺の脳内からきれいさっぱり記憶を消し去る機構も、この言葉だけは拭えない。
その端緒を掴んだような気がするが、ええっと。
何だっけ、何だっけ。
ああ、もどかしい。ふわっとした意味が頭の中にあるんだけど、まさぐろうとした瞬間に消えちゃった。
それでも俺はあきらめきれず、こうやって言葉にしているわけだ。
口にすれば解決するというわけでもないが、ほら、言霊というものがあるだろう。
君はスピリチュアルな存在を信じない唯物論かもしれないが、科学が万能だと立証されたわけでもないだろう。
どうやってもすがつくしかない。今の俺にはこの状況から脱する手段が他にないのだ。
ここにいれば空腹も睡魔も襲ってこない。寒暖もない。俺の周囲には乳白色の雲が沸き立っており、気温も穏やかだ。
苦痛は何一つない。
退屈だって感じない。
何しろ五分後には忘れちまうんだからな。
ああ、そうこうしているうちに時間が過ぎていく、あと四分十秒だ。
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