ミッション・クリア2

奈那美

第一話

 つ・ま・ら・な・い。

ほんとうにそう、思う。

 

 仕事そのものは楽しんでいる。学生時代も勉強するのは、嫌ではなかった。むしろ、好きなほうだったと思う。

おかげで一流と言われる大学に合格したし、そこそこ有名な企業に就職もできた。

配属された営業部でも、常に上位の成績を残せている。

けれど『ただそれだけ』

 

 周囲……親や担任からは「もう少し頑張ったら、もっといい学校に行けるのに」と、いわれ続けていたが、無駄な努力はしたくなかった。

そんなものは面倒くさいだけ。

 

 仕事もそうだ。

上司は「残念だったな、大和やまと。あと一件でお前がトップだったのにな。来月は頑張れよ」

 

 ……知ったことかよ。

いい成績残したところで、手柄は上司のもので、俺にはせいぜい部長の『お褒めと激励のお言葉』が与えられるくらいだ。

 

 それでも異動になるまでは、せめてもの癒しがあったから、仕事に行く楽しみもあったが。

今はただ、毎日淡々と仕事をするだけ。

他人のせいにしたくないが、異動の遠因のひとつは、名前のせいだ……いや、それでもやっぱり自分が悪いのか。

 

 

********************

 


 「あれ?立花さん。なんか良い匂いするけど、香水つけてる?」

出社してきた安藤さんが、デスクにつくなり鼻をクンクンとさせて、私に聞いてきた。


 「おはようございます。……そんなに匂いますか?ひさしぶりにつけたから、つけすぎちゃったかも」

「ううん。近くに来たらふわっと感じるくらいだから大丈夫よ。爽やかないい香りね」

 

 「ありがとうございます。旅行先で見かけて、テスター嗅いだら気に入ったので、つい買っちゃって……コロンとか、あまりつけない方なのに」

「素敵な香りよ。グリーン系でもないみたいだけど?」

 

 「これ、オリーブが原料なんですよ。以前は、甘い香りも好きだったんですけど。最近はなんか違うな~って」

「そっか。でも似合ってるよ。立花さんらしいっていうか」

好きな香りを褒めてもらえるのって嬉しい。ひさびさにつけてきてよかった。

 

 「そういえば、話は変わるけど。いまさらだけど、立花さんの下の名前って、なんていうの?」

私は一瞬詰まって、答えた。

「かおる……です。ひらがなで」

「かおるさんっていうのね。素敵な名前じゃない」

 

 「でも」

「でも?」

「フルネームだとちょっと……」

「どうして?『たちばな かおる』すてきよ」

 

 「……子供のとき、端午の節句のころになると、いつもからかわれていたんです。こいのぼりの歌で」

「あ、歌詞」

「はい」

「でも可愛いからいいじゃない」

安藤さんはにっこり笑って続けた。

 

 「私より、いいわよ」

「安藤さんはお名前、なんておしゃるんですか?」

「私は『夏美』よ。夏至の日に生まれたから。フルネームで言ってみたらわかるわ」

「安藤夏美さん……あ!」

「ね。おかげで子供のころのあだ名は、ドーナツよ」そういってけらけらと笑った。

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