第33話 これでまるっと収まった……? 8


 一方、戦艦<シャルンゼナウ>の中では、ちょっと大変なことになっていました。

「トレアリィ姫! 待ちなさい!」

「待てって言われても待つわけ無いでしょ!!」

 自ら身を張って、銀河達が逃げるのを手助けしたトレアリィ。

 あのあと、ただ捕まってしまったわけではなく。

 シールドを展開して捕縛術法を切断して、作戦指揮所から脱兎のごとく逃げ出しました。

 それはいいのですが……。

 ホログラムのアキトと、警備用アンドロイド達が鬼のようにしつこく追ってきています。

 赤い捕縛用のビームなどで、捕まえようとするアキト達でしたが。

 トレアリィの逃げ足は意外にも早く、捕まえきれません。

「逃げ足が早いな……。ならば」

 アキトは艦内の車が通れるほど広い廊下を、走ります。

 彼は手に魔法陣を描き、術法を放ちます。術法の光が、肉食獣のように疾走ります。

 が、その術法はトレアリィの前の方へと、飛んでいってしまいました。

「何よそのへなちょこ術法……!」

 と舌を出して笑った彼女でしたが。

 その術法は床に着弾すると、土色をした液体に変わって、ぬるぬると広がり……。

 トレアリィが、その液体の中に踏み入れた瞬間!

 つるん、と足が滑り、彼女は勢い良く倒れてしまいました!

「!?」

 トレアリィは、すぐさま起き上がろうとします!

 が、かなり滑りづらくなっていて、なかなか起き上がれません。

 さらに、液体が体に触れると、ねばっとして体にまとわりついてきます。

 そうこうしているうちに。

「手間をかけさせる……」

 両目を釣り上げたアキトが、トレアリィの前に立ちふさがっていました。

(しまった、重力制御システムで浮かんでいればよかった……)

 そう後悔したものの、アフターフェスティバル。後の祭りです。

 アキトは捕縛術法で再び、トレアリィを捕らえると、別の術法で彼女の体を持ち上げました。

「……あいつらはまだか」

 アキトは、一見冷静に見えました。が、返ってその冷静な顔が、恐ろしく見えます。

 こんな顔の時、人が何をするか、わかったものではありません。

 一方、トレアリィの顔は怯えきった顔になっていました。

(どうしよう。エネルギーも切れちゃったし、このままじゃ、何をされるか……。助けて。銀河、助けて)

 彼女が、愛しい人の名を呼んだその時でした!

「警報! 衛星軌道上のグライス艦隊から、戦艦がこちらに向かって接近中!」

 と艦内放送がけたたましく響き渡りました!

「そうか。よし、私は艦の操艦に戻る。貴様らはこの女を艦橋へと連れてゆけ」

 アンドロイド達にそう命令すると、アキトのホログラムは光となって消えました。

 機械兵達と共に残されたトレアリィでしたが、彼女は、待ちに待った春がやってきたかのような顔で、心のなかでつぶやきました。


 いらしてくれたんだ……! ご主人さまが……!


                     *


 その頃、プリシアの侍女艦達も大変なことになっていました。

 彼女らは、人格プログラム達が乗る可変戦闘艇部隊の包囲網を、とりあえず脱出しました。

 しかし、サンナの艦の大型レドームは、半分砕け散っていました。

 シェレナ艦の二本あった、超大型砲のひとつは失われていました。

 ティエラの艦は四基のシールドの内、左右一基ずつなくなっていました。

 そしてリュノン艦の格闘用アームは、上部二基失われていました。

 その他にも各艦、その他の主機やバイタルパートなどにも被害を受けていました。

 彼女らの様は、まるで悪逆無道の暴君に犯された美姫のようにも見えます。

 さらに言うなら、いまだに彼女らは可変戦闘艇部隊の追跡を受けていました。

 絶体絶命の危機です。

「ねえ、逃げきれるかな……? あたしもう疲れた……」

 ティエラは艦橋のコントロールパネルに顔を乗せながら言いました。

 そこにサンナのウィンドウが現れ、て言いました。

「諦めてはダメよ〜。まだ終わってはいないからね〜」

 なお明るい笑顔のサンナの隣に、リュノンのウインドウが現れ、言葉を続けます。

「おう、これからゼ! あたいら、まだまだ戦えるからナ! 来るならどんと来いダゼ!」

「でも、これ以上ダメージを受けたら、あたしのシールド、持つかどうか……」

 ティエラはため息をついて、ダメージレポートを表示させました。

 艦のシルエットは、ほぼ真っ赤です。

 これであと一、二会戦したら、大破しちゃうんじゃないか……。

 そんな判断をしたティエラは、パネルにさらに顔を押し込みました。

「もーだめだー……」

 その時、ウィンドウがさらに開き、シェレナが独り言のように告げました。

「敵部隊、再度加速。距離を詰めてくる」

 げっ。ティエラはテストの返却が来た時のような顔をしました。

(もうそろそろ、年貢の納め時か……)

 そう思いながら、こわごわと顔を上げた時です。

 シェレナが、さらに追加の報告を伝えてきました。

「月軌道のグライス艦隊より戦艦が一隻発艦。こちらに向かって接近中」

 え。ティエラはその報告に、脳波制御で艦のモニターを操作しました。

 目の前に、白く輝く女神の星の姿が現れました。

 その中央、グライスステーションシップの周りにある艦隊から光の点がひとつ離れ、次第に大きくなってきているのが見えました。

「あれは……」

 その時、さらにウィンドウが開き、通信が入りました。

 新規ウィンドウに映しだされたその少年の顔は。

「大丈夫かみんな!? 今助けに行くぞ!!」

「え、天河くん!?」

 天河銀河、でした。

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