第31話 これでまるっと収まった……? 6


 一方。

 プリシアの侍女艦隊は、<シャルンゼナウ>や可変戦闘艇と共に、地球の周りを廻っていました。

 音もなく、ゆらゆらと地球上空を廻っています。

 彼女らは他の艦が待機状態に入ったので待機していましたが、自分の艦のブリッジにいたサンナが素っ頓狂な声を上げました。

「おかしいわね〜〜」

 それに同じく、自艦のブリッジにいたティエラが眠そうな声で問います。

「何かー?」

「<シャルンゼナウ>の中で騒ぎが起きているみたい〜〜」

「騒ぎー?」

「何? 喧嘩カ?」

 リュノンが自分の出番だというように、通信回線に割り込んで言いました。

「なにやらアキトが騒いでいるみたいだけど〜〜。あっ」

「どうしター? サンナー?」

「月軌道上のグライスステーションシップから<シャルンゼナウ>へ転送ゲートが開いて、消えましたわ……」

「誰か向こうへ行ったのカー?」

「ええ〜〜。どうやら、マスターも一緒みたいよ〜〜」

 その言葉を聞いて、ティエラとリュノンは、

「……」

「……」

 と黙りこみました。

 そして、これから口にすることがはばかれる、というように、声を潜めて言い合います。

「もしかしてー……」

「マスター……、アキトのことヲ……」

「うむ、裏切ったな」

 そう断定したのは、今まで黙っていたシェレナでした。

 その言葉に続けて、ティエラとリュノンは、おそるおそる周りを見渡しながら言いました。

「もしかしてあたし達……」

「囲まれテルー!?」

「いい事に気がついたなぁー? 嬢ちゃん達ー?」

 そう言って人型に可変した戦闘艇の拳をサンナ達に向けたのは、アキトが保有する、モンク人格プログラムでした。

 彼だけではありません。他の戦闘艇も、剣や銃、斧や杖など、それぞれの得物を手にして彼女らの艦に向けているではありませんか!

 その数三〇隻以上はあります。大ピンチです!

「……嬢ちゃん達に残された選択肢は二つ。降伏して俺達の配下に加わるか、それともこのまま逃げて太陽系外に出るか……。さあ、どうする? 嬢ちゃん達ならどうする?」

「……決まってるでしょオ!」

 その問いに、リュノンは当たり前だという声で叫びます。

「その選択肢に反逆するッ!!」

「上等だぁっ!!」

 モンクも嬉しそうな声で叫ぶと、人型戦闘艇の手のひらから術力弾を打ち出しました!

「ぬわっと!?」

 その弾が、白地に青いリュノン艦が展開した重力シールドに直撃!

 リュノンは艦内でよろけながら、気丈に叫びます。

「やったナー!!」

 そのお返しに、リュノンの艦のアームが展開!

 その先端から数百メートルはあるようなプラズマブレードが伸び、モンク艦を強く貫こうとします!

「おおっと!」

 モンク艦は、重力スラスタを吹き出してギリギリのところで回避!

 回避しつつ、術力弾を打ち出します!

「リュノン、ここは突破して距離を取りましょう! ティエラ! シールドを全力展開! シェレナ、弾幕を貼って!! 包囲を突破するわよ!!」

 語尾を伸ばす余裕もなくなったサンナが叫びつつ、自らも操艦します。

「や、やってみる……」

 ティエラは、冷や汗をかきながら重力シールドを最大限に展開しました。

 他の三艦をも包むような、特大の赤黒いシールドが出現します!

 可変戦闘艇の剣や銃などから放たれる、術力弾を特大シールドで弾きつつ、ティエラ艦は先頭を行きます。

 リュノン艦だけでなく、サンナ艦やシェレナ艦も防空レーザーや電磁投射砲、近接防空ミサイルなどを次々と発射し、重力機関を戦闘出力にして地球上空から離脱しようとします。

「逃がすかよ!!」

 モンク艦は、そこで拳に力をためつつ、空間を重力スラスタで蹴りました。

 空間が一瞬ゴムのように歪み、それで機体がパチンコの球のように弾かれます。

 その瞬間的な加速で前に出たモンク艦は、ティエラ達の前に出ると、シールドに向かって拳を叩き込みました!

「うおわーッ!!」

「ぬ、ぬわ……!」

 接触した部分から、強力な重力波と電磁波と可視光が発せられ、ティエラは思わず腕で顔を隠します。と同時に艦が激しく揺れ、スクリーンが点滅して消えました。

 この影響で大規模なEMPが発生し、周囲にあった地球製人工衛星の多数が、機能停止しました。さらに影響は地上にも及び、幾つもの国々で何万台ものコンピュータがダウンし、世界中が大混乱に陥りました。

 彼女らの戦いは、地球にも影響を及ぼし始めたのです。そのさまは、地上での人間の喧嘩に逃げ惑うアリ達のようにも思えて、ある意味喜劇的です。

「くっ、シールドが……!」

 脳内に伝達された情報で、シールド発生装置のひとつに深刻なダメージがあったことを、ティエラは知りました。

 ナノマシンで修理すれば大丈夫なのですが、いかんせん戦闘中。

 相手が修理を待ってくれるはずがありません。

(あたし達、生き残れるかなー?)

 そんな不安がティエラの胸を流れ星のようによぎりますが、戦わなければ生き残れないんだよね、と自分に言い聞かせました。

 そして、艦の揺れに足を踏ん張らせつつ、自分のなすべきことに集中するのでした。


 一方、銀河達は……。

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