銀河マニアックス!〜電撃大賞Ver〜

あいざわゆう

第1話 風呂場でご主人さまと僕に囁いている 1



〔ご主人さま……〕

「ん?」

 もやのカーテンの向こうで、陶器製の青いバスタブに身を沈めていた少年が、わずかにその顔をしかめました。

 まだ寒さの残る三月。晴れた日曜日の夕方。

 静かな住宅街にある、やや大きめな一戸建て住宅の、普通より広めの風呂場でのことです。

 彼の名は天河銀河。この春から私立秋津洲学園高等部の二年生になります。

 その顔と体つきは、芸能界にいてもおかしくない、爽やかさと端正さを持っていました。

 そんな彼の耳元、いや脳内に、女の子の声が聞こえてきました。

 ちょっとだけ、銀河の体が浮かび上がります。

〔ご主人さま……〕

(何、この脳の中から聞こえてきてるこの声は……?)

「……誰?」

 女の子の声に呼ばれた銀河は、唇をへの字に曲げました。はっきりと声は聞こえるのですが、その少女の姿形はどこにも見かけません。一人で風呂に入っているので当然なのですが。

 銀河は、水色のタイルに覆われた風呂場のあちらこちらへと、視線を向けたその時。

 また、声が聞こえてきました。今度はもっと明瞭な鮮やかさを持って。

〔ご主人さまは、今そちらにいらっしゃるのですねっ?〕

「ご主人さまって……、僕?」

〔はい、もちろん。あなたのことです。ご主人さま〕

「き、君はどこから?」

〔海の中に隠した宇宙船の中からですの〕

「うちゅう、せん……?」

〔ではご主人さま、参上いたしますね〕

「参上……?」

 その瞬間。青白く、大きな光の門が、銀河の頭上に輝き──。

「……!?」

〔ご主人さま……!〕

「!?」

 光の門の中から、女の子が現れました!

 銀河がまず目にしたのは、長い銀髪でした。先端がさらさらとウエーブした髪です。

 次に顔。その顔は、青い目に、透き通るような白い肌、淡い桃色の唇。

 人類であるようで、そうでない、とても可愛らしくて美しい顔でした。

 そのお姫様のような顔に、銀河は息を呑みました。

 彼女の首から下の全身は、白を基調としたウエットスーツのような服で覆われていました。

 体つきがはっきり出たその服は、どことなく姫のようで、遊女のようでもありました。

 そんな女の子が、空中で青く輝く光の門の中で浮かんでいました。

 その時。銀河は心のなかでこう叫びました。

(──なんで!? 美少女なんで!?)

 と。


 これが天河銀河と、トレアリィ・フィメル・グライスとの出会い、でした。

 この出会いが、地球の、いや銀河の歴史を変える事となったのです。


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