ダメだし

「リリアーナ様? どうされました?」


 ローゼリアがぽかんとした顔で私を見た。

 ううん、彼女だけじゃない。この場にいた全員、シュゼットやクリスまでもが私を見ている。それもそうだろう、こんなタンカの切り方、滅多にやらないからね。

 しかし私は彼女たちの驚きを無視して、上から目線でローゼリアを睨みつける。


「どうしたもこうしたもないわよ。気の利かない連中ね」

「ええ……? 何かご不満な点でもありましたか」

「全部」

「は?」

「あなたたちが持ってきたもの全部がダメ!」


 まさかの全否定に、ローゼリアの表情が固まる。


「あなた状況わかってる? 風呂上りに持ってくる服がコレって、バカなんじゃないの」

「これは王都で流行のデザインを用いた最高級品で……」

「ドレスの質がどうこうじゃないの。ドレスを着せようっていうのがダメ!」


 衣装をジャンルごと否定されて、女官たちが困惑顔になる。

 ただひとり、顔をまだ笑いの形にとどめているローゼリアが反論する。


「しかし、このあとは王妃様との晩さん会が予定されています。それなりの格好をしていただかないと」

「そんなのキャンセルに決まってるでしょ」

「いえ、しかし」

「いい? 私たちは大災害にあって、生きるか死ぬかの生活をしてたの。すっ……ごく疲れてるの! やっとお風呂に入って一息ついたいたいけな子供に、ドレス着て晩さん会に出席しろって、シュゼットを殺す気?」

「そんなつもりは……」


 ローゼリアの視線がゆらぐ。

 すかさず、シュゼットがタオルを体に巻いたままその場に座り込んだ。


「うう……おなかすいた……ねむい……」


 ナイス。

 意図をくみ取ってくれる仲間って、頼もしいね。


「そうね。そこの、生なりの布地でできた服をよこしなさい。シュゼットに着せるから」


 脱衣所の棚に置いてあった布地を指さす。

 棚の前に立っていた女官がこわごわそれを取り出した。


「よろしいのですか? これは、蒸気浴サウナ用の浴衣よくいですが」

「体を締め付けたりしないってことよね、好都合だわ。ほらさっさと三人分渡す!」


 私はひったくるようにして、女官から服を受け取った。座り込んでいるシュゼットに着せて、自分も同じものに着替える。クリスも同じ格好だ。


「ではせめて、美顔水だけでもいかがですか」

「結構よ」


 私は美顔水とやらが入った瓶を、脱衣所の窓から放り投げた。女官たちの間から悲鳴があがる。


「私たちをいくつだと思ってるの。こんなにおいの強い変な水を塗らなくても、栄養のある食事をとって、たっぷり寝ればそれだけで肌がキレイになるわよ!」

「この……っ」


 初めて、ローザリアの顔が怒りにゆがむ。

 しかし私が王妃に接待されるべき侯爵令嬢である以上、彼女は手が出せない。


「全員出ていって! さっさと私の侍女を返してちょうだい!」


 叫び声とともに、私は女官たちを脱衣所から追い出した。


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