部屋割り(特別対応)
「勇士七家メンバーには個室を用意していただけないでしょうか?」
私は、無理を承知で副寮母に要望をあげた。横で話を聞いていたクリスがきょとんとした顔になる。
「リリィ? 私は別に大部屋でも問題ないぞ」
「クリスだけならそうかもしれないけどね?」
騎士育ちなクリスのサバイバル能力が高いのは知ってるけど、今はその能力を発揮するところじゃない。できれば彼女にも人の目を避けられる場所を用意したい。
「この非常時に今度は何を言い出すのよ」
ライラがあきれ顔になる。
その気持ちはわかるけど、今は構っていられない。
非常時だからこそ必要なものもある。
「私ひとりが駄目なら、クリスとフィーアの三人で一部屋でもいいので!」
「……何か事情が?」
「いろいろと」
ただし『いろいろ』の内訳は説明できません!
自分でも無茶を言ってる自覚はあるけど、通す必要のある話だ。
「……しかし」
副寮母は、きまずそうにちらりとシュゼットを見た。彼女がそんな反応をしてしまうのは当然だ。だって、たった今シュゼットに、監視役のライラとの同室を認めさせたところだもんね。その直後に、自国の高位貴族に個室を与えるのは失礼すぎる。
明らかな不公平采配だ。
とはいえ、私にも裏事情があるので、折れるわけにもいかない。
「しょうがないですわね」
私たちの沈黙を見かねたシュゼットが、肩をすくめた。
「どうしても必要なのでしょう? 用意して差し上げたら良いのではありませんか」
「シュゼット様がそうおっしゃるなら……でも、三人で一部屋ですよ? それ以上の場所はそもそも用意できませんから」
「充分です! ありがとうございます!」
個室をゲットして、私は小さくガッツポーズをとる。
よーしこれでかなり動きやすくなったぞー。
理解のある友達ほどありがたいものはない。
と、思っていたら、シュゼットはにんまりと笑った。
「ただし、これはひとつ貸しですわよ」
「う」
「昨日の夜のことといい、今回といい、貸しばかりがどんどん増えていますわねえ」
「ううっ」
「これは機会を見て、たあっぷり返してもらわなくては」
「あ……あの、その、頼ってるばかりのつもりはなくてね? いつか必ず恩返しはするつもりで!」
借りっぱなしで終わりにする気はないよ!
今は返す機会がないから、積み重なっちゃってるけど!
「く、ふふふふっ……」
あわてていると、シュゼットはこらえきれずに笑い出す。
「わかってますわよ、非常事態ですもの。でもいつか返してくださいね」
「もちろん!」
そう答えたところで、『個室が必要な事情』が発生した。ポケットにいれたアイテムが、わずかに震えている。クリスも気が付いたみたいで、顔をあげた。
「……なるほど、コレか」
私は副寮母に向き直る。
「申し訳ありません、事情ができたので早速個室を使わせてもらいます!」
私はシュゼットたちに詫びると、クリスと一緒に講堂を飛び出した。
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