出生の秘密

「俺としては、偽国王が継承の前日に、出生の秘密を知ったってとこが引っかかるんだよなー。出来過ぎてるっていうか」

「十中八九、作為的なものだろう。ユラのことだ、入れ替わりを知った上であえて放置し、わざと継承直前に偽国王にだけが発見できるよう証拠に細工をするくらい、やりかねん」

「あいつ、そういう悪趣味な運命の悪戯演出、好きそうだもんね」


 だからこそ、邪神の化身なんだろうけど。


「なるほど。おおむね、王室の状況は理解しました。では、本物の王はどちらにいらっしゃるのでしょうか? セシリア様がお産まれになっている、ということは少なくとも十六年前までは生きていたはずですよね」

「それが、今は亡きラインヘルト子爵よ」


 私はカトラス家の保護下にある名家の名前を出した。


「本物の王子は、まず乳母の手で王都中心部の孤児院に預けられたの」

「あとで迎えに行くつもりだったんなら、そのへんが妥当な預け先だろうな」

「でも、乳母は殺されてしまったでしょ? 彼はそのまま孤児として成長して、当時子供のいなかった先代ラインヘルト子爵に養子として引き取られたの」


 血統が何よりも重要視される王家や勇士七家と違い、他貴族家は実子以外への相続が認められている。家の存続のために、優秀な養子をとるのはよくある話だ。


「子爵家ゆかりの女性を妻に迎えて、爵位を継承したそうよ」

「それで、セシリアが子爵令嬢として育った……ってとこまではわかるんだけどよ。なんでカトラスの妹分ってことになってんだ?」

「それはそれで、いろいろ事情があるのよ」


 ヴァンの素朴な疑問にどう説明するべきか、私は返答に困ってしまう。かわりにフランが口を開いた。


「セシリアが産まれたあとに子爵家で不幸が続いたんだ。まずセシリアの母が出産直後に病死し、後妻を迎えたが直後に子爵自身も亡くなっている。後妻の浪費で子爵家が傾き、セシリア自身の身に危険が及んだため、カトラスが子爵家ごと保護した」

「あーそういう」


 貴族家では財産をめぐるいざこざが珍しくないせいだろう、ヴァンは納得顔でうなずいた。

『セシリア自身の身に及んだ危険』が、魔力式給湯器ほしさに後妻がセシリアを闇オークションに売り飛ばし、あわやユラにお買い上げされそうになってた、ってことまでは言わなくてもいいだろう。話がややこしすぎる。


「俺たち特別室組のメンバーは、昨日初めてセシリアの素性を知ったわけだがフランドール、あんたの関係者……大人連中は誰がどこまで知ってるんだ?」

「ほとんど誰も。知っているのは俺の父だけだ」

「宰相じゃねーか!」


 ヴァンが驚くのと一緒に、私もびっくりして目を丸くしてしまった。血統の裏事情を宰相閣下まで知ってるなんて、私も初耳なんだけど?


「お前の入れ替わりの時と同じだ。国政に少なからず関係する以上、政治のトップが事実を知っておく必要がある」

「だったらどうして、あのアホ王子を放置してるんだ。あんたの口ぶりだと、ほとんど最初から、国王の入れ替わりを知ってたよな? 知っててどうして何もしねえんだよ」

「それにはもちろん、理由がある」


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書籍4巻発売まであと1日!書籍版もよろしくお願いします!

詳しくは近況ノートにて!

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