リーダー会議
「まず確認だが、この第五階層を突破したら脱出できる可能性が高いんだよな?」
ヴァンの問いかけに、私は顔をあげた。
「それは、本人に聞いたほうがいいわ。……もちお、来なさい」
声をかけると、ちょいぽちゃ白猫がやってきた。もちおは私たちの前まで来ると、ちょこんとお行儀よくおすわりする。こういう所は猫というより犬っぽい。
「もちお、第五階層を突破することで、アンロックされる機能について教えて。ナビゲーションAIに関することだけでいいわ」
「……『コードプログラミング』機能が解放されます。あわせて、『自己診断』と『自己修復』の機能も解放されます」
「ぷろぐ……なんだそれ」
「診断と修復は、なんとなく想像がつくが……リリィ、わかるか?」
「え~と……ここまで専門用語っぽい話になると、私もちょっと。もちお、コードプログラミング機能について教えて」
「コンソールを操作して、新規プログラムを作成する機能です」
「まじか」
いきなり機能を解放しすぎだろ。
こっちとしては好都合だけど。
私がうなっている横で、フランとヴァンがきょとんとした顔になっている。プログラムがどうこう、とかファンタジー住民には縁が遠すぎる。
「ええと……この施設を動かしているプログラム……うーん、魔法の記述を、直接操作して新しい魔法を開発できるようになる……感じかな?」
「直接操作って、危険なんじゃねーのか。複雑な魔法を横からいじくったら暴発すんだろ」
「アルヴィンの給湯器事業でもたまに聞く話だな」
「お湯を早く沸かしたいからって、出力をいじったら爆発したって事故ね。まあ……事例としては似たようなものかも」
「やっぱ危険なんじゃねえか」
まあまあ落ち着いて。
「その安全策として、『自己診断』と『自己修復』の機能があるんだと思う。もちお、コードプログラミング機能を使用して、誤ったプログラムを組み込んでしまった場合、問題を解消することはできる?」
「可能です。システムは常にバックアップを取っており、過去のデータを参照して問題が発生する以前の状態に戻すことができます」
「オッケー! ありがとう、もちお!」
「どういたしまして」
ちょいぽちゃ猫が心なしか凛々しく感じる。
拡張したもちお、頼りになるね!
「えーと……つまり?」
私のテンションが上がりまくってる一方で、ヴァンとフランは再びの困惑顔だ。
「要は、問題が起きる以前のデータを使って、システムを元に戻せるってこと。もちお、シミュレーションして。この修復機能を使って、現在起きている『ログアウトできない』という問題を解消できる?」
「……可能です」
「んんん、最高!」
「どういうことだ?」
じろり、とフランが私を見た。猫型AIを私が褒めちぎっているのが気に入らなかったらしい。心の狭い恋人って面倒くさいね!
「第五層を突破しさえすれば、拡張した機能を使って外に出られるってこと!」
言い切ると、ヴァンが大きく安堵のため息をついた。
「よし……それならまだなんとかなるか」
「どういうこと?」
「セシリアが限界だ。できるだけ早くダンジョンから脱出したい」
ヴァンの言葉に、私たちは目を丸くした。
「限界って……」
「フランが来るまでのサヨコと一緒だ。ダンジョンっていう閉鎖空間でユラの悪意に絡まれ続けて、精神的に追い詰められてる」
それは私も感じていた。私も大分不安定だったけど、それはセシリアも同じだ。ユラを死体にして引きずっていこうとか、聖女にあるまじき危険な提案に賛成するくらいには疲弊している。
「サヨコがいた間は、もうちょっとしっかりしてたんだ。自分よりずっと弱い仲間を守らねえと、って気を張ってたんだろう。だけど……お前はリリィに戻っただろ? 踏みとどまる理由がなくなって、緊張の糸が切れちまったみたいだ」
「……それは」
つまり何か。私が元気になったせいで、セシリアの心が折れてしまったと。
「お前が戻ったことが悪いって言ってるわけじゃない。フランが助けに来て、リリィが回復魔法を使えるようになってなかったら、どのみち全滅してた」
突然のダンジョン探索で、否応なくリーダーとなった指揮官は、悩まし気にため息をつく。
「だけど、今にも壊れそうな仲間を放置するのは、話が違うだろ」
「私にとってもセシリアは大事な友達だもの。助けてあげなくちゃ」
私はメニュー画面からダンジョンマップ画面を表示した。まだ探索を始めたばかりなせいで、マップは大半が表示されていない。
「第五階層、地下神殿のテーマは『鬼ごっこ』なのよね」
「鬼ごっこ……なんか嫌な予感がする名前だな……」
私は苦笑した。ヴァンの予感は正しい。
「第四階層のボスは、私たちを追いかけてきてたよね? 第五階層はその反対。広いダンジョン内を逃げまわるヴァンパイアを捕まえて倒さないといけないの」
「攻略にめちゃくちゃ時間がかかるやつじゃねーか!」
ゲームの展開としてはおもしろいんだけどね?
強制RTA(リアルタイムアタック)勢としては迷惑この上ない。
「ダンジョン中に明かりを灯して、ヴァンパイアの逃げ道を塞ぐのがセオリーなんだけど……そんな手間のかかる方法で攻略してたら、脱出する前にセシリアがつぶれるわね」
「何か裏技はないのか?」
「ん~……」
私は攻略本を取り出してページをめくる。
一応邪道ルートがないわけじゃないけど、あれは好感度と引き換えなんだよなあ。そんなことしたらキャラ攻略が……ん?
「好感度は必要はないのか」
「リリィ?」
怪訝そうなヴァンとフランに私はにっこりと笑いかけた。
「囮作戦でいきましょう!」
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