建国神話の意義
セーフエリアで一息ついた私たちは、ダンジョン探索を再開した。
目指すはボスが待ち構えている広場。いわゆるボス部屋である。
ボス部屋をあける鍵は蜂の巣からゲットしてあるので、あとは部屋の前を目指すだけだ。……といっても、ここは鍛錬目的のダンジョン。そう簡単に前には進ませてくれない。
ある程度進むごとに、どこからか敵が現れては行く道を遮ってくる。
「ヴァン、右の通路からニワトリが来る!」
「ニワトリ……って、なんだありゃ、でっけえ!」
ドッドッドッ、と人間の背丈ほどある派手な雄鶏が森の木々の間から現れた。武器を構えたヴァンたちが、私とセシリアを守るように陣形をとる。先頭に立つクリスがクレイモアをニワトリに突きつけた。
「ただ大きくなっただけのニワトリ、か?」
「いや、なんか後ろにヘビみたいな奴がいる! 気をつけろ、クリス!」
「ヘビとニワトリ……そうか!」
ケヴィンが何かをひらめいたのか、モーニングスターを手に走り出した。
「おい、ケヴィン!」
「あっちのヘビは俺にまかせて! それと、石化よけのまじないを!」
「はいっ!」
ケヴィンの指示に従って、セシリアが全員に魔法をかける。
敵対する存在だとわかるのか、ニワトリは翼を広げてこちらを威嚇してきた。同時に、全身から紫色のモヤのようなものが立ち上る。
「あれはなんだ……?」
ヴァンがニワトリを睨む。さすがのクリスも、モヤを見て踏み込むのをやめた。明らかに害がありそうな色だもんね。
「あれは石化の呪いを持つ毒だね。セシリアが石化よけをしたから、しばらくは大丈夫。ケヴィンが蛇の相手をしてる間に、ニワトリを倒して!」
ニワトリの後方、その巨体の先でケヴィンが戦う姿が垣間見える。何がどう連動しているのか、ケヴィンが蛇らしき影に攻撃を加えるたびに、ニワトリの動きが鈍った。
「よし、石化よけが切れる前に行くぞ」
「わかった!」
ヴァンとクリスが同時に踏む込む。ニワトリは彼らを警戒して後退しようとしたが、後ろをケヴィンに押さえられているので思うように身動きがとれない。怯んだところにクリスのクレイモアが迫った。普通の剣ではありえない、エメラルドグリーンの光をまとわせた大剣は、ニワトリの頭を簡単に切り裂いた。『クレイモア』の兵装スキルだ。
「ふうっ……」
どさりと大きな音をたててニワトリが地面に倒れる。横倒しになったニワトリをよくよく観察すると、尾羽の間からなぜか、人間の胴体ほどもある太さの巨大な蛇がにょきっと不自然に生えていた。
「さっきからチラチラ見えてた蛇はこれか! ……っつーか気持ち悪い化け物だな」
見ているうちに、不気味なニワトリは他のモンスターと同様に光の粒となって消える。
「すぐに倒せてよかったね」
今回のバトルの功労者、ケヴィンが武器を持ったままにこにこ笑う。
「お前の行動が的確だったからな。しかし、よくあいつが石化の呪いを使うってわかったな」
「だいたいこのダンジョンのことがわかってきたからね。コレ、多分『建国神話』に出てくる石化の魔物『コカトリス』じゃないかな」
「正解」
私は攻略本片手にケヴィンの推理をジャッジする。ヴァンが目を見開いた。
「なんでわかった?」
「このダンジョンが、俺たち勇士の末裔を鍛えて邪神に対抗させるために作られたのだとしたら、出現する敵にも意図があるんじゃないかって思ったんだ」
その推理も正しい。
邪神が復活した先に待つのは、神の力で作り出された魔物の氾濫だ。普通の獣や軍隊と戦う感覚で指揮していたら、あっという間に負けてしまう。魔物の生態は指揮官に必須の知識だ。
「建国神話に出てくる魔物は大体出てくると思ったほうがよさそうだね」
「うえ……学年演劇はともかく、歴史書レベルの建国神話は把握してねえぞ。逆にケヴィンはコカトリスなんてよく覚えてたな」
「俺は姉さんたちと聖女ごっこをして育ったから。聖女役の姉さんを守る騎士の役ばっかりやってたから、敵のモンスターも自然に覚えちゃったんだよね」
それはそれで、知識の継承としては有効な手段だと思います。
「ふむ、だとしたらここで十分戦闘経験を積んでおけば、来るべき日に備えられるってことか?」
「いや、それはどうだろうな?」
ヴァンは嫌そうな顔でツノつきの悪魔を見やった。
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