セーフエリア

「な……なんとかなった……」


 木々に囲まれた広場のひとつに駆け込んで、私たちはその場に座り込んだ。そこには誰が置いたわけでもないのに焚火があり、煌々と燃え尽きない明かりをともしていた。

 振り返ると、追って来た獣の群れは広場の手前で引き返していくところだった。

 セーフエリアと決められた場所に敵キャラは入ってこれない。ダンジョンの大事なルールのひとつだ。


「はあ……はあ……」


 走りすぎて喉が痛い。

 体を起こすこともできなくなって、私はごろりと地面に寝転がった。


「小夜子さん、大丈夫ですか?」


 セシリアが心配そうに顔を覗き込んでくる。私は無理やり口の端をつりあげた。


「息を整えれば……なんとか」


 ダンジョンにいるせいだろうか? 細くて貧弱なのは変わらないけど、体から病気はなくなってるようだった。発作が起きないなら、この程度は耐えられる。


「いや~大変だったね」


 くすくすと、ひとりだけ余裕のユラが笑う。


「大変だったのはお前のせいだろ!」


 クリスがそのへんに落ちていた石をユラに投げつける。同士討ち防止機能が働いているのか、石はユラを素通りして向こう側に飛んで行った。


「いやいや、僕は純粋に君たちの成長に協力してるだけだよ。集団戦闘のいい練習になったんじゃない?」

「確かにそうなんだけどね?」


 私は体を起こして、メニュー画面を開いた。

 ユラが次々に敵を釣ったせいで、経験値ポイントには連戦ボーナスが追加されていた。全員が一気にレベル三十にならぶ急成長である。

 でも、あんな心臓に悪い戦い方、そう何度もやりたいと思わない。


「ステータスを確認していいか?」


 ヴァンが私の手元を覗き込んできた。私はそれぞれのパラメータやスキルが確認しやすいよう、画面を調整する。


「レベルの他に、スキルが増えてるな……名前だけだと、どんな効果があるのかわからねーけど」

「それぞれの特性にあわせてつけられたものだから、戦ってるぶんにはそこまで気にしなくていいと思うよ」


 ダンジョンのシステムは、探索者たちの性格を的確に分析した上でスキルを付与していた。

 先陣を切って敵を倒すクリスには、集中力アップなどのバフスキルと大打撃をもたらす必殺技スキルを。周りと合わせるのが得意なケヴィンには、連携スキルと追撃スキルを。戦場を把握し仲間に指示を出すヴァンには、観察スキルと仲間を鼓舞するバフスキルが与えられていた。

 第一階層で戦闘スキルを伸ばしていたセシリアは、後方に回ってからは一転、仲間を支える加護や治療スキルが急成長している。

 私はというと……うん、レベルは上がってるっぽいけど、パラメータもスキルも全然増えてないよ! レベル一からレベル五になっても、村人は村人ってことだね!


「経験がそのままスキルになってると思えばいいのか……?」

「ねえ、この『スタースマッシュ』って何かな? 俺はこんな技を身に着けた覚えがないんだけど」


 一緒になってステータス画面を見ていたケヴィンが不思議そうに言った。

 詳細説明には『流れる星のごとき速さで鉄球を飛ばし敵を粉砕する』と書いてある。確かにケヴィンはモーニングスターを扱えるけど、鉄球を飛ばしてまで攻撃できない。


「それは銀の鎧『モーニングスター』の兵装スキルだね。そっか、セシリアがレベル三十になったから、鎧の兵装スキルがアンロックされたんだ」


 画面を切り替えると、ヴァンには『ソーディアン』のスキルが、クリスにも『クレイモア』のスキルが追加されている。どれも強力な技なので、積極的に使っていただきたい。


「なんでそんなもんが追加されるんだよ!」


 ヴァンがぎょっとした顔になる。

 それを見て、ユラがおかしそうに笑いだした。


「君たちまだ気づいてなかったの?」

「何をだよ!」

「……ここは、戦闘訓練の場だっていったでしょ。想定してるのは人や獣との戦闘だけじゃない。白銀の鎧を操って厄災が召喚する悪しき魔物と戦う訓練もさせてるんだよ」


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次の更新は2/14……と言いたいところですが、息子病気療養中につき製作している余裕がありません。14日に更新がなかったら「力尽きたんだな……」と思っててください……。


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