病弱少女のステータス

「はあ……アホらしい。他のところを確認するか」


 私は自分のステータスを表示させた。セシリアやユラの名前がハーティアの公用語で記されるなか、私だけ『天城小夜子』と漢字が表示されている。


「異界の文字っておもしろいね。それで、君のステータスは……うわあ」


 今度はユラが声をあげる。

 彼とは対照的に、私のステータスはめちゃくちゃ低レベルだった。

 体力、腕力、素早さなど、フィジカル関連は軒並み一桁。HPだって二桁程度しかない。

 知力や精神力など心に関するパラメーターはやや高いけど、それだけだ。そんな才能があったところで活用できるスキルがひとつもない。

 予想はしてたけど、我ながらこれはひどい。


「ねえ、魔力値の表示が変なんだけど、これも文字化け?」


 ユラが魔力の保有ポイントを指す。ユラやセシリアはレベルにあわせた数値が表示されているけど、私だけ『-』表示になっていた。


「それは私に魔力がないからじゃない?」

「はあ? 魔力がない? それでどうやって生きてるの」


 信じられない、とユラが目を丸くする。

 いつも余裕たっぷりの彼にしては珍しい。ここへ来て初めて本気で驚いたみたいだ。


「どうやっても何も、私にしてみたら魔力のほうがわけわかんない力だっての。私の世界は物理現象オンリーで、神も仏も魔法も全部空想上の存在だから」

「神が……存在しない……? そんなものあり得るのか?」


 ユラはとうとう頭を抱えてしまった。


「そこまで驚くことかなあ」

「私も彼も、神と直接つながってるようなものですからね。それらが一切存在しない世界、と言われるとぴんとこないです」

「そういうものなんだ?」


 私にとっては神の存在を強く感じる、というほうがぴんとこない。

 運命の女神とは何度か会ってるはずだけど、彼女が妙に人間臭くてノリが軽いせいで、いまいち偉大な存在と思えないし。


「うーん、私はバトルに参加するのは無理かなあ」

「この数値では、低レベルの攻撃を一度受けただけでもゲームオーバーになりかねませんからね。ダンジョンでは、私が小夜子さんを守りましょう」

「レベル五で?」

「う」


 ユラのつっこみに、セシリアが言葉をつまらせる。

 珍しくやる気になってるんだから、即座に水をささないでもらえますか?


「まず最初に頼るべきは僕でしょ? システムに能力を制限されているとはいっても、現時点で一番強いんだから。服従の首輪で縛られたら、反抗できないし」

「ついさっきそれで制御しきれなくて、失敗したところなんですが」

「それで? 僕の力を使わずに先に進めるの?」

「……」


 現実問題を引き合いにだされるとつらい。

 私はプレイヤーとして何度か女神のダンジョンをクリアしたけど、中に入る時は必ず戦闘能力のある攻略対象を連れていた。ヒロインのレベルが低いうちは、彼らに守ってもらうのがセオリーだ。ユラが提案しているのは、それと同じだけど。


「攻略にあなたの力を使うわけには……」

「そういうことなら、利用させてもらおうよ」

「小夜子さん?!」

「何も、ずっとユラを頼れって言ってるわけじゃない」


 私はメニュー画面を切り替えた。

 そこには、勇士七家の紋章とともに、一緒にログインしてきたはずの友達のアイコンが並んでいる。王家を表す剣にヴァン、モーニングスターにケヴィン、クレイモアにクリス、そしてハルバードにリリアーナ。私が別IDになっている影響か、リリアーナのアイコンだけノイズがかかっている。


「このダンジョンは攻略を進めるとパーティーメンバーが増やせるんだ。さっさとポイントためて機能解放して、ユラをお払い箱にしよう」

「いいアイデアですね!」


 私たちは気合をいれて、ダンジョンに足を踏み入れた。



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