神造兵器

「……待って、待ってくれ。建国神話ってあれだろ? おかしな絵空事ばっかりの」

「絵空事じゃないの」


 動揺するヴァンに、私はきっぱりと言い切る。


「建国神話はただのおとぎ話じゃない。本当にあった現実の事件よ。初代聖女は女神の力で巨大な城を空に浮かべ、白銀の鎧に乗り込んだ勇士たちとともに、厄災を封じたの」

「それが事実だとして、何故お前らがそれを知ってるんだ?」

「手品の種を明かさないのがハルバードの流儀、なんて台詞じゃごまかされてくれないわよね」

「当然だ。お前の言動は手品の範疇を越えてる」

「……ユラを止めたら詳しく話すわ。どこまで信じてもらえるか、わからないけど」


 セシリアとふたりして、ここまでゲーム情報全開の行動をしたのだ。私に忠誠を誓っているフィーアやジェイドはともかく、ヴァンたち三人は説明しなければ納得しないだろう。


「ご主人様、また扉です!」


 先頭を歩いていたフィーアが振り返った。

 そこには入り口と同じような古めかしい扉がある。こちらには文字盤も変な詩もない。セシリアが近づくと、ドアはまた音もなくスライドした。

 私たちは急いでドアの先へと踏み込む。

 そこでは想像しうる中で最悪の状況が待ち受けていた。


「意外に早かったね」


 殺風景な灰色の部屋で、ユラが振り返った。彼の前には銀のレリーフに縁どられた高さ二メートルほどの姿見があった。鏡は銀色に輝きながらも、真正面に立つユラの姿を映してはいない。ただの姿見ではないことは明らかだった。

 異様なのはそれだけじゃない。銀のレリーフに触れるユラの手からは、どす黒い何かが溢れ出ていた。黒い何かはじわじわとレリーフを黒く染めていっている。

 詳しいことはわからないけど、あれはきっとよくないものだ。


「ユラ、その手を放しなさい!」

「断る」


 セシリアの命令を拒否した瞬間、ばちんとユラの首もとで何かが爆ぜた。ユラの制服が首元からじわじわと赤く染まっていく。しかし、ユラは薄笑いを浮かべたまま、レリーフに添える手に力をこめた。レリーフはどんどん黒くなっていく。


 私のすぐそばから、ひゅっと風を切って何かが飛んでいった。フィーアの投げたナイフだ。ユラは身動きひとつせずにナイフを弾き飛ばす。次いでジェイドが放ったらしい魔法もあっけなく防がれる。ユラお得意の『魔力だけの力技で全部弾く』だ。


「ユラ!」

「嫌だ」


 ユラは何も写さない鏡面に手をあてた。とたんに、頭上から抑揚のない声が降ってくる」


『認証……エラー……認証……エラー…… 遺伝子を……確認できません』

「まだ他に人が?」


 システム音声に馴染みのないフィーアが、ぎょっとして天井をふりあおぐ。だけど説明している暇はない。


「無駄よ、あなたにそこに入る権限はない!」

「だからハックしてるんじゃない」


 鏡全体が真っ黒になる。ユラの仕業なのは明らかだった。


「ユラ、やめなさい!」


 セシリアが叫ぶ。

 ユラの首からびしゃっと派手に赤い血が噴き出した。普通の人間なら、明らかに命に係わる量の鮮血だ。ユラは体を赤く染めながら、それでもにやりと笑う。


「甘いよ聖女様」


 灰色の床に血だまりだけを残して、ユラは姿を消した。



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