未来の後悔

「ケヴィン様、今まであなたの周りに侍っていた婚約者たちは、全員いなくなったわ」


 私はケヴィンに向かって一歩踏み出した。

 ケヴィンは椅子に座ったまま、びくっと後ずさる。


 今回のモーニングスター家の問題、根底にあるのはケヴィンの優柔不断だ。

 そもそも彼がしっかりしていれば、弱みに付け込んで家をどうこうしようという連中も現れたりしない。


 モーニングスター家を強くするためには、何よりもまず彼が強くなくちゃ。


 ゲーム内の彼は、こう語っていた。


『俺は、あの時言わなくちゃいけないことがあったんだ』


 彼は3人の婚約者たちが殺し合ってしまったことを後悔していた。彼女たちをただ受け入れることしかできなかったこと。大人に助けを求めることもできず、彼女たちの問題に介入することもできず、結局死なせてしまったことが大きな心の傷になっていた。


 ゲームの中ではすでに事件は終わっていて、後悔する彼をただ慰めることしかできなかったけど。


 私は、あなたの未来の後悔を知っている。

 言えばよかった言葉、選ぶべきだった選択を知っている。


『ちゃんと口に出したら、未来は変わっていたのかな』


 そうだよ、言えばきっと世界が変わる。

 未来の願いを、今叶えてあげる。


「私が、あなたのただひとりの婚約者よ」


 目の前にいるのは、婚約者3人を黒幕ごと片付けたとんでもない女の子だ。

 条件が揃ってるからって、こんなヤバい女の子に迫られて、はいそうですかと頷ける人間なんていない。

 フランと私でそう演出した。


 思惑通り、ケヴィンは私を見て恐怖に顔を引きつらせている。


 怖いでしょ?

 逃げたいでしょ?

 決断を迷ってる暇なんてないよ?


 私はケヴィンに向かって手を差し伸べた。


「ケヴィン様、私と結婚してくれますわよね?」


 そう言った瞬間、ケヴィンの感情が爆発した。


「ごめんなさいっ! 君とは結婚できない!!!」


 公の場で、彼が初めて見せる拒絶の言葉。

 それを聞いて会場の大人たちが息をのんだ。


 ケヴィンは椅子から立ち上がる。

 顔はこわばったまま、目には涙をためているけど、しっかりと自分の意志を言葉にする。


「君が嫌いなわけじゃない。でも、俺はどの女の子とも恋愛をする気はないし、結婚することもできない」


 求婚を断られているのに、私は嬉しさで笑いそうになってしまった。

 決断し、拒絶できるなら、もう周りの思惑に流されたりしないはずだ。


 よくできました。

 さあこれでモーニングスター家の問題は全部かいけ……


「だって俺、ゲイだから」


 …………………………………………はい?


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