閑話:それぞれのエピローグ1(クリスティーヌ視点)
「クリスティーヌ、おかえりなさい」
カトラスから王宮に戻ると、早速母が出迎えてくれた。
若いころは小枝のよう、今は枯れ木のよう、と言われる母のほっそりとした腕が、俺の体を抱きしめる。俺は今にも壊れそうな母の体を、ゆっくりと抱きしめ返した。
母が目配せをすると、乳母以外のメイドたちが下がった。
俺が男であることを隠す都合上、俺たち親子は『人嫌い』という設定になっている。メイドや侍女たちも、王妃が支配する王宮で前国王という後ろ盾を失った俺たちに必要以上に関わってこない。
結婚前からの母の親友であり、俺に乳を与えて育てた乳母だけが、唯一信用できる他人だった。
完全に人目がなくなったことを確認してから、母は俺に囁いた。
「それで……『お見合い』の成果はどうでした?」
「失敗、ではありませんでした」
「……どういうことかしら」
母は首をかしげ、それから乳母を見た。
今回のお見合い旅行には乳母も同行していたからだ。俺がカトラスで警備の目を盗み、滞在先を抜け出していたあいだ、不在を隠蔽してくれたのは彼女だ。
乳母は困り顔で肩をすくめる。
「私にもよくわからないのですよ。直接クリスティーヌ様に伺ったほうがよろしいかと」
「クリスティーヌ?」
「結果から言うと、トラブルがあって闇オークションには参加できませんでした」
「……薬は?!」
元々青白い母の顔が青ざめる。
俺は、なだめるように母の背を何度もなでた。
「落ち着いてください、母様。性別を変える魔女の薬は手に入りました。それも、本物が5個も」
「どういう、こと?」
「とてもいいトラブルがあったんですよ」
俺はカトラスで出会った、男みたいな女の子と、爆弾みたいな女の子の話を語った。
荒唐無稽なおとぎ話を聞くような顔で、俺の説明を聞いていた母は、聞き終えると同時に深いため息をついた。
「……そんなことが。信じられないわ」
「でも、事実です」
「まさか、クレイモア家の子が……女の子だったなんて」
知った事実の大きさに耐えかねたのか、母の体がふらついた。
「あの子を王宮の茶会で見かけるたびに、思っていたのよ。クリスティーヌを男として育てていたら、あんな風になっていたのかしら、って。あなたがあの子そのものに成り代わることになるとは……夢にも思わなかったわ」
「シルヴァンも納得していることです」
「そう……」
「私……いや、俺は次期クレイモア伯として、彼女を守ることにしました」
宣言すると、母の目から涙がこぼれた。
「あなたが……男の子として……大事な人を守る人生を……送れるのね……」
「はい、だから」
俺は母をもう一度抱きしめると、今までずっと言いたくて言えなかった言葉を告げた。
「もう、無理をしなくていいんですよ、母様」
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エピローグ、クリスティーヌ編です!
クリスティーヌの口調が、リリィたちの前と全然違いますが、これは母親用の顔、ということで。
クリスティーヌに女であることを強いている母の前で、本性全開のガラの悪いところを見せると、「バレたらどうするの!」とめっちゃ怒られます。
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