お客様

 練兵場にいた父様と合流して応接室に入ると、そこにはブラウンの髪をしたおじさまと、同じ色の髪の上品な女性がいた。


 彼らは、私たちと一緒に入ってきたフランを見ると、一斉に駆け寄ってくる。


「フラン……!」

「よく……生きて……」


 フランに触れるふたりの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。


「父上……姉上……どうしてふたりともわざわざ……」

「行方不明の弟が見つかったのよ、駆け付けるに決まってるでしょ」


 上品な女性、多分フランのお姉さんのマリアンヌさんは、そのままぎゅうっとフランを抱きしめた。フランは一瞬、眉間に皺を寄せたけど、すぐに姉の背中に手を回した。

 ちょっと恥ずかしい、って思ったけど、お姉さんをなだめるのが先、って判断した顔だなーあれは。


「それにしても到着が早すぎませんか」

「ハルバード家から早馬の知らせを受けて、すぐに馬車を走らせたからな。……とにかく、生きたお前の顔が見れてよかった」


 おじさま、つまりミセリコルデ宰相閣下もほっと息をつく。


「お忙しいのに……お手を煩わせてしまいました」

「謝るような話じゃないだろう」


 ふたりを見てると、どっちも本気でフランの生還を喜んでくれているのが伝わってくる。

 ほらねー、やっぱりフランはいらない子なんかじゃないんだよー。

 にこにこしながら3人を見守ってたら、フランがこっちを見て、嫌そうに眉間に皺を寄せた。なんでだ。


「……ハルバード侯爵、ありがとうございます。息子の命を救っていただいたこと、感謝してもしきれません」


 息子の顔を見て落ち着いた宰相閣下は、父様に向き直ると深々と頭を下げた。


「いえ、私は偶然部下を止めただけですから。礼なら何日もご子息を匿い続けた息子と娘にしてあげてください」

「ほう?」


 父様の武勇で事件を解決したと思っていたんだろう。宰相閣下は驚いて私たち兄妹を見た。


「父上、感謝はまずそちらのリリアーナ嬢に。暗殺者に襲われて崖から落ちた俺を、彼女が危険を顧みず助けてくれなければ、そこで死んでいました」

「えっ」


 いや、確かに助けろって命令したのは私だけど、救命処置をしたのはディッツだよ?

 あとそれから離れでフランを守ってたのは兄様もジェイドも一緒なんだけど。


「ふふ、かわいらしい上に勇敢なのね。なんて素敵なレディなのかしら」


 マリアンヌさんが目をキラキラと輝かせて私を見る。

 その上、宰相閣下は正式な騎士の礼を私に贈ってきた。


「息子の命を救ってくれたこと、感謝します」


 ええええええええ、ちょっと待って!

 こんな目上の人に礼をされるなんてどうしたらいいかわかんないんだけど!

 えっと、淑女の礼? 淑女の礼で返せばいい?

 ああああこんな時に限って、マナーに精通してるメイドも、母様も側にいないし!


「も、もったいないお言葉です。私は当然のことをしたまでですから」


 淑女の礼を返すと、宰相閣下とマリアンヌさんはにっこりとほほえんだ。

 た、多分これで正解なのよね?


 ふっと顔をあげたら、フランと兄様が笑いをこらえているのが見えた。

 面白がるなあああああ!

 ふたりとも、あとで見てなさいよ!


「人の命を助けるのは当然、と言いつつも、実行に移せる者は少ない。君はとても立派なレディだ。……お礼に何かプレゼントさせてくれないかな?」


 え、プレゼント?

 いいの? 本当に?

 いいって言ったら本当におねだりしちゃうよ?

 周りを見回すと、父様も兄様も、ついでにフランも「いいよいいよ」って顔をしている。

 ……ミセリコルデ宰相家はめちゃくちゃ大きな家だし、ちょっとくらい大きなものをお願いしてもいいよね?

 よ、よーし、おねだりしちゃうぞー?


「じゃあ、人が欲しいです! 有能な人材を紹介してください!」

「……は?」


 宰相閣下は鳩が豆鉄砲をくらったような顔になった。

 ぶは、とフランが耐えきれずに吹き出す。


 なんだよー!

 今一番必要なのは、人でしょー?!


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