第191話 春が向こうから来た(百合。先輩×後輩)

「でも意外だったなぁ」

「何がですか」

 綺麗な桜の樹が見えるチェーン店のカフェ。

 期間限定のフラペチーノとラテを買って、二人で分けっこして飲む。

 花見と洒落こみながら。

 まるでデートだ。ってまあ、デートなんだけど。

 目の前に座る女子高生は、私の後輩で、恋人。

 この三月から。

 学校では両耳の下で括っている髪を下ろしているのが、少しだけ大人っぽい。眼鏡はそのままだけど、これは良き。何でも外しゃぁいいってもんじゃない。

「ハクはさ、告白なんてしないと思った」

 三月。卒業式の日に、彼女から好きだと言われた。

 顔を真っ赤にして。かと言って、恥ずかしそうというのでもなく。寧ろ不貞腐れた顔だった。

 それがあまりにも彼女らしくて。

 可愛くって仕方なかった。

 だから、即オッケーした。

 オッケーされると思ってなかったのだろう。

 眼鏡の奥で丸くなった眼がまた可愛かった。

「ああ……」

 ふい、顔を反らして彼女は言った。

「順子先生……塾の先生が、言ったから」

「え、塾講に相談したの?」

 誰かに相談しそうに見えなかったので、素で驚いた。

「いえ……。テストに関してのアドバイスでしたけど。何か、私の行動思考に関して大体使えそうだなって思ったんで」

「ちなみにどんな?」

「『もっと自分を信じて、思い切って判断しても大丈夫』って」

「なるほどねぇ」

 いつもは大人の言うことなんて斜に構えて聞かない子なのに。変なところ素直なんだから。

 ……あー。

 これは、嫉妬だな。

 私は、心の中だけで眉をしかめた。

 ハクが言うこと聞くのって、私くらいかと思ってたから。

「あの、有田さん?」

「ん? ああ、何でもないよ」

 私の顔をまじまじ見る彼女は、何だか猫みたいだ。

 本当に? と飼い主を見上げてくるあの瞳と似ている。

 疑っているのに、こちらに信頼を寄せている感じ。けれど、べったりはしてない感じ。そっくり。

「ハクは、何をしてても可愛いねぇ」

「……いきなり何ですか」

 からかわないで下さい、と言ってまた視線を反らす。その目の端のあかさ。可愛い。

「からかっては、ないんだけどね」

 さあ、と風が吹く。花びらが散る。そのうちのひとひらが、彼女の髪を飾った。

 ああ。

「可愛いね」

 私のものになったあなたが、より可愛い。

 春が、向こうから来た。

 

 END.

 

 順子先生は、この話の(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16816927861967786541)。

 

 

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