第84話 少女は『親ロボット』の夢を見るか(ロマンシス? 寮生)


「『おかあさん』アンドロイドを売り出せば、売れると思うんだ」

「どうしたいきなり」

 同室の多々良が、いきなり言い出した。

 多々良は、突然話し始めることが多い。当初は戸惑ったが、今はだいぶん慣れた。

 人間、一年も経つと慣れるものだ。

「『おとうさん』アンドロイドでも可。とにかく、『親』のアンドロイドを開発すればいいんだよ」

「だからどうしたんだ、急に」

「だってさ」

 多々良は、私の方を振り返ると、唇を尖らして言った。

「親って、変えられないじゃん? 生まれた親によって、得られる愛情が変わって来るの、本当に不平等が過ぎると思うんだよね」

「まあ、確かに」

「誰だって、『無償の愛』とか『全受容』が欲しいじゃない、本当は。でも、親から貰えなかった人はさ、何かどうしようもないじゃん。『他人に欲しがるのはダメ』って言われてるし。確かにそうだとも思うし。けど、そんなのあまりに酷すぎるじゃん」

「それはそうだけど」

 高校ともなれば、親から貰えなかった『無償の愛』とかいうやつは、他人からも貰えないとわかってしまう。

 そりゃそうだ。親さえ与えられないものを、他人が他人になんて、なかなか無謀なお話だ。

「だからさ、せめてさ。『大人になったら、望む親の愛が得られる』って希望が欲しいじゃん」

「だから、アンドロイド」

「そう。でも実際出来たとしてお高いだろうから、救済のために、アンドロイドの人工知能と会話出来るだけのプランをお安くご用意して欲しい」

「ほほう」

「『実家にお電話』みたいな体で」

「なるほどね」

「ああ~……誰か開発してくれないかなぁ」

 多々良は、遠くを見る目で夢見るように言った。

 夢見るような口調だけれど、そこには切実さがあった。

 多々良の家はややこしくて、長期休みも殆ど帰省しない。

 何故それを知っているかと言うと、私も同じ穴の狢だからだ。

 家には帰らない。

 殺伐としたあんな場所、長期休みには相応しくない。

 私たちには、相応しくないのだ。

「現実になると良いねぇ。せめて、私たちが生きてる間に」

「そうだね。生きてる間に、無償の愛を感じたいな」

 親が聞いても、教師が聞いても怒りそうな夢だったが、それでも私たちにとっては大事な夢だった。

 いつか、私たちにも救済が訪れると信じたい。

 自分を救えるのは自分だけ。そんなこともわかりかけてきたけれど、それでも。

 未来に夢を見ることは、許されていたかった。


 END.

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