リノリウム詩集

小林素顔

視界

革靴のつま先が目の前にある

頭上から叫び声がする

ウイングチップの高級な革靴の

視界に しきりに かすめる

その人の指先

私は腰を折り曲げて

重力に耐えている


視界が 一面 床板になる

頭上に革靴のつま先がある

光を跳ね返すほど光沢がある

私のスニーカーが十足買えるほど

高いかもしれない

三つ指を立てて触れる床材は

とても冷たい 


視界がゆっくり 持ち上がる

その人を 革靴の光を 見上げている

叫び声はもう聞こえない

私は床の下 深く 深く

沈んでいく

心地よい

床の下 闇の中は

いっそう冷たくて 静かだ


その人も遠くに消えて

革靴の光も見えなくなって

何も聞こえなくなって

床の中で 私は

記憶にないはずの

揺り籠を思い出し

眠るのだった

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