STEP:5
全ての発明は臓器の模倣から始まる。
酔いから醒めた鶯はダビンチの人体図に鶉の設計図を重ねた。
その原典は創世記であり「故に我、休息す」と嘯く。
だから放蕩者なのか。
「あっきれた」
卒倒しかけた鵲に鶯は肩を貸した。
(肌の温もりを感じる。出来ればあの人に抱かれたかった)
「冗談よ。私って極端なのよね。燃え尽きるまで突き詰める。造物主もそうだと思う」
それが汚部屋や酒瓶の理由だと言い張るのだ。鵲は一瞬、耳を疑ったが、鶉という完成品があるではないか。
「鶉さんと恋仲になったの。冗談みたい」
鵲が当てつけると「ああら、そう」と受け流す。そして会心の一撃を加えた。
さりげなく写真を投影し「彼氏君、男前じゃん」
「人の男性遍歴まで」
流石に鵲も頭に来た。殴り掛かると鶯はひらりとかわし耳元に吐息した。
「声だけで満足?」
鵲の背筋に電流が迸った。復活できるというのだ。
「どうやってボディに魂を?」
首を傾げる鵲の前で銀河が再び輝いた。
「鶉に宿ってないと思った? これが彼女の知性」
渦巻く水素ガスは帯電しており、特異点の重力場が高圧電子の交雑を支えている。絡み合う磁場の奔流が神経系を模している。
微細黒孔を公転する大脳であると鶯が説明した。
「鶉の制御中枢とリンクしてるの。それだけじゃない。物質を自在に操れる。以前、代謝の収支が合ってると言ったわよね?」
下腹部にむず痒い視線を浴びて鵲は気持ち悪くなった。
「崩すことも出来る? まさか、ちょっと、貴女、正気なの?」
「私は鶉を『女』にしてあげようと思うの。『女の子』じゃなくてね」
「狂ってるとしか言いようがないわ。他人の元彼を鉄人に産ませるなんて」
鵲は退散する事にした。編集長に全てを話して支援を直ちに打ち切らせよう。
荷物を纏めて玄関に向かうと、そこで白衣の巨漢と鉢合わせた。
「蒲生編集長…」
「副編集長。衒学は鶯女史を全力支援する事にした。既に科学軍から引き合いが来ていてね。鉄人が人を超えるとすれば神の領域に踏み込む事だ」
「そ、そんな」
鵲はへたり込んだ。
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