秋です、ぱいせん。
第二十話 秋は夕暮れ
『夏休みも終わり、これから新学期です。気を引き締めて行きましょう。以上です』
生徒会長、萩原絵梨の挨拶が終わって壇上から降りていく。
『始業式は以上になります。担任の先生の指示に従って一年生から退場してください。』
司会進行役の生徒がアナウンスで終了の合図をだして、下級生から順次体育館を出ていく。
結局あのまま何もなく、怠惰のまま過ごした夏休みが終わり、今日から新学期。俺はなんかどうでもよくなってた。と、いうのも。
人間、多分生きてたらあると思うんだけど、一気にこう、やる気が削がれる瞬間が訪れる事。新学期が始まるという事象に対して俺のやる気がぶっ飛び、強烈な虚無感に襲われている最中なのだ。そもそもお前にやる気なんてあるのか?なんて言わないでおくれ…。
「ふぅ…」
にしても今世紀最大の夏休みだったような気がする。色々とありすぎてそれだけでも頭のキャパがオーバーしてるのに、それに加えてまた今日から学校、という虚無感。
どうしようもない倦怠感に襲われながら、教室に戻り、まだホームルームが始まらないのをみてトイレに向かう。
休憩時間に教室にいたら、さらに虚しくなるからだ。周りの奴らは、夏休み何処どこにいった!とか、誰々のライブに行った!とか何とかを友達間で共有しあってキャッキャッしているわけだが、それを聞いてるとなんか強い疎外感に襲われるわけなのだ。
という事でトイレに向かおうと思ったが、トイレも人が結構並んでたので断念。
「新学期、なぁ…」
結局、夏祭り後から例の女子2人からの連絡は全く無いし、さっき教室で篠崎さんとすれ違ったのだが、その時も何の反応も無し。
夢だったのかもしれない。
まぁ、夢だったとしても良い夢だったので問題無し。あんな花火大会とか一日デートとか普通考えられないからな。
そんなこんなで廊下をフラフラ歩いていると、ホームルームまで後5分を知らせるチャイムが鳴ったので、引き返す。
引き返そうとしたとき、ふと窓を見ると、向かいの廊下を見慣れた女子が背の高い男子と2人並んで雑談しながら歩いているのが見えた。
男子にしては髪が少し長めだが、結構細身に見えて歩く重心がブレてないし、キリッとした顔付きだし、多分男子だろう。服は体操服を着てるので胸は分からないけど、身長俺と変わらんか俺より少し高い感じだし。
今流行りの中性的な美形のイケメンって感じ。
「あれは…八重桜さんよな…?」
そう、八重桜さんがそのヤケに美形の男子と2人で並んで歩いていた。しかもなんか楽しそうに話してるっぽい。
それをみた瞬間に何故だか一気に気が抜けた。そうだよねー、そりゃ彼氏くらいいるよねー。あの時遊びに行ったのは夢だったんだよねー。それか気まぐれで俺をからかいたかったんだよね。
「おいおい、休み明けでヤサグレてんじゃん」
「…!?」
言葉通りヤサグレていた俺の後ろから突然声を掛けられ、恐る恐る振り返るとそこには小さい女の子がいた。小学生…?
いや、小学生じゃないと思うし、小さいと言っても150cmくらいはあるんだろうけど。いや、ないかもしれない。身長は八重桜さんより少し低いくらい。
くりくりお目目のぱっちり二重、つけまでも付けてんじゃないかってくらいに綺麗に上を向いて伸びた睫毛。
少し丸い鼻に綺麗な朱色のぷっくら唇。
焦げ茶の髪をサイドテールにしてオレンジ色のシュシュで結っている。
少し制服を着崩してるのもポイントだ。
この子は一体…?
「アタシは、
「ほ、ほんとにこんな時期にやな」
「そうなんだよー、なんでこんな時期に!って思う。ま、取り敢えずよろしくな!」
「お、おん」
そういうと杠葉さんは颯爽と俺の教室とは逆方向に歩いていく。
そうか、違うクラスに転校してきたんだろうな。てっきり今の感じからして同じクラスだと思い込んでた。
違うクラスだとしたらもう話す機会もないだろう、まぁ例え同じクラスでも話す機会は無いけどな!
「はい、今日からこのクラスに転校生が来ます。もう来てるはずなんですが…」
クラスに戻ると担任が既に教卓に付いていて、チャイムと同時に転校生の存在を明かしたわけなのだが、その転校生がどこにもおらず、担任が少しあたふたしてる。
杠葉さん…。俺のクラスやんけ…。一体どこ行ったんや。
やっと5分後くらいに教頭に連れられてきた杠葉さんは少し恥ずかしそうに自己紹介を始めるのだった。
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