第19話 愚かな女 1

【特別取調室】


王国に関わる重大事案を担当する第四騎士団所属の特別な取調をする部署。

略して『トクトリ』!


【毒婦マリー】を取り調べるのは、

ベテラン聞上手のAと強面のB



******************

【ユイナーダ王城・特別取調室】



私は、ユイナーダ王国騎士団の公安担当第四騎士団の騎士です。

仕事上、名前を知られる訳にはいかないので、『取り調べ官A』と名乗っておきましょう。




私の事をもっと知りたい?

中肉中背、定年間近の銀縁眼鏡のオジサンですよ。

よく『騎士には見えない。』『優しそう。』と言われます。




同僚には『目が笑ってない。』『見た目詐欺』と言われてます。

まぁ騎士ですからね。

見た目通りではありませんよ。

これでも空手(くうしゅ)の有段者ですから。



そんな事よりお仕事です。



今日これから、私達が取り調べるのは『自分の子供と公爵令息を入れ替え、公爵家を乗っ取ろうとした。とんでもない悪女』だそうだ。



ドアがノックされ、腰に縄をかけられて、小太りの栗毛の女が取り調べ室に入って来た。

ロピアー公爵家の乳母をしていた女だが、また格好が派手だね。



《名前はマリー・フォルラン。》

年齢38歳か。

年齢の割に老けて見えるな。

私は笑顔で彼女に



「こんにちは、マリー・フォルランさん。

私は、貴女の取り調べ担当官Aと言います。

どうぞお座りください。」



と話しかけた。

ところが、彼女は挨拶を返す気は無いようで、かなり不満そうだ。



「あちらの彼は、Bと言います。」



記録担当官の彼は、少し頭を下げるだけです。

基本無口なので……



なのに何故この部屋にいるかというと、私とは逆に強面で目力があるからです。

『優しそうな人と、怖そうな人が居た場合、優しそうな人の方が話しやすい、と思うでしょう。』

そういった事を踏まえて彼とコンビ組んでいるのです。



実際には、私より彼の方がずっと優しいんですけどね。

と、いうのは置いといて!



とりあえず、彼女は席に座ってくれましたが、かなり不機嫌そうですね。



「何故、ご自分が逮捕されたかご理解されていますか?」



彼女はこちらを見ようともせず、そっぽを向いたままです。



「………。」



だんまりですか?仕方ありませんね。



「では、この書類を見てください。」



そう言って私は【鑑定の魔道具】で調べた書類を彼女の前に差し出した。



すると彼女は目を見開いて



「ど、どうして!?」



やっとこちらを向いてくれましたか。

まぁ、最近出来たばかりの魔道具だからねー。



「貴女には、ご自分の子供と公爵家の子息を乳母の立場を利用し、入れ替えた容疑がかかってます。」



そう告げた途端、彼女は動揺し始めました。



「………。」



おや?まただんまりですか?

しかし、目が泳いでいますね。



「貴女が入れ替えて、育てていた息子さんのナルキス君、この結果を見て相当ショックを受けてましたよ。」



「!!」



おっ!興味持って来たね。



それを聞いた彼女は、先程とはうって変わり‥…



「見せたのかい?コレを!?

どうして、余計な事をしてくれたんだい!

このままあの子が、何も知らなきゃ当主交代の儀式の時、バレずにそのまま公爵家を乗っ取れたのに!」



と激昂し始めた。

こういうところは、やはり実子と似てるようだ。



「おや?犯行を認める自供ですか?

それにしても、よくあの儀式の裏技を知ってましたね。」



初耳ですね、そんな裏技があったんですか。



私の言葉に彼女は、小太りの体を譲って自慢気に答える。



「学園にいた時に、そういうのに詳しい男がいてね。

其奴に、教えてもらったのさ。」



それは聞き捨てなりませんね……



「因みに、貴女にそれを教えた方は今、何方にいます?

是非、その方と話しがしてみたいものですね。」



すると彼女はニヤリと笑って



「残念だったね!

あたしにこの事を教えた男は、とっくに墓の下さ!」


「それは残念ですね~。

では、貴女以外にその情報を、知っている方はいますか?」



こんな話、バラ撒かれたら大変です。



「さぁ?そこまでは知らないよ。」



知っている者達がいたとしても、随分と気長な方法ですね。

本人に知られずにというのも、かなり難しいですし…実行しても本当に成功するかどうか怪しい計画です。



その『爵位簒奪の方法』が本当だったとしても、【鑑定の魔道具】を使うようになれば直ぐに使えなくなるでしょう。



問題は彼女の言っている方法が実際に行われて、既に実行されていたとしたらかなりまずいですね。

魔道具研究所の者達は『今の性能ではまだダメだ。』と言っていましたが、この状況では早急に対策を講じなければいけません。



まぁあちら側で観ている方達が直ぐにでも動くでしょう。



「ところでマリー・フォルランさん…

貴女は何故、そこまでしてロピアー公爵家を乗っ取ろうとしたのですか?」



私の質問に、彼女は随分と鬱憤が溜まっていたようで冗舌に話し出した。



「その方が金になるからに決まってるじゃないか!」




******************

後書き



AとBのモデルが誰だかわかったかな?

この話は某警察ドラマを参考にしています。

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