第16話 婚約破棄のその前に

前書き


ざまぁの前にそれぞれの主張。


******************


【ユイナーダ王国王城・貴族院控室】




《ボルネオール侯爵家側》


(エリー視点)



ついに…ついに、この日が来ましたわね!

本日午後から、ロピアー公爵家と我がボルネオール侯爵家の、婚約についての話し合いが行われる事になりましたの。



公爵(おじさま)には、悪いと思っていましたが、私は昔からナルキス様の事が嫌いでしたもの。



ロピアー公爵領でお会いしてから12年…

彼の言動に、何度堪忍袋の尾が切れかけた事でしょう。



その度にお祖父様や両親、公爵夫人(おばさま)の説得もあり、何とか我慢をして来ましたが、ロピアー前公爵が亡くなられてからの、ここ1~2年は流石に目に余る状態でした。



浮気はもちろん、カンニング、地位を嵩に来ての下位貴族への無理難題等…



いったい何度、婚約者として謝罪したかわかりませんわ!



******************


《ロピアー公爵家側》


(ナルキス視点)



今日、俺様はあの生意気な婚約者エリーと正式に婚約破棄する。



だいたい俺様は、会った時からあの女が嫌いだったのだ!

屋敷に来た時も、俺様の相手をせずにクリスの奴とばかり遊んでいた。



昔から気に入らなかったクリスには俺の宿題を、全部押し付けてやった。

ざまぁ見ろ♪



それから暫くしてあの女が、クリスを欲しがった。

屋敷から追出すチャンスだと思って、侯爵家に渡したら、代わりに宿題をやらせてたのが、家庭教師にバレてジジイや執事に怒られた。

乳母のマリーだけは、俺様を庇い励ましてくれたがな。



その後、俺様は“飛び級”で、中等部から学園に入学した。{注:ナルキスは、飛び級の意味を勘違いしています。}

クリスは、中等部にいなかったから安心していたのに、アイツは“高等部”にいたのだ!

この時も、マリー乳母は俺様を励ましてくれた。



次の年、あの女が中等部に入学して来た。

入学パーティーで運命的な出会いをし、彼女と一緒に会場に入ってパーティーを楽しみ、外に出て来たらまた怒られた。



『彼女は泥棒で、学園の学生じゃない。』

と言われ、恥をかかされたのだ!



高等部の入学式の時、ルールが変わって代表挨拶をさせてもらえなかった。

文句を言おうとしたら、生徒会長に睨まれた。



次の年にあの女が入学して来た。

入学パーティーの会場に、俺様は入れなかった。



その内あの女は学園で、男を侍らせ始めた。

そのくせ俺様が彼女達と一緒にいると、嫌味ばかり言って来た。



そしてこの前、やっと浮気と下位貴族の彼女達へのイジメの証拠を掴み皆んなの前で、断罪してやったのに失敗した。



「男と浮気している!」と言ったら、女装した男が立ち上がって

「それは私だ。」

と言って庇った。

とても女には見えないのに、わざわざ女装までしている。

それほどあの女が大事なのか?



「男を侍らせているだろう!」

と言ったら、取り巻きの女が

「全員女友達だ。」

と言い訳して来た。



「パーティーで、ワインをかけられた。」

という愛しのリリーの主張も

「別のパーティーに出席していた。」

と言い訳をして来た。

だがあの日、別のパーティーが無かったのは、わかっているんだからな。



「部屋に侵入されて、制服を破られた。」

という愛しいセリアの証言には

「王城に招待されていた。」

と、とんでもない言い訳をして来た。



「階段から突き落とされて、怪我をした。」

という可哀想なロゼに学園の教師が

「王都の侯爵家で勉強を教えていた。」

などとあの女を庇う発言をしたのだ。



王城の騎士や学園の教師まで誑かしているなんて、なんてずる賢い女なんだ!



やはりあの女は俺様の婚約者に相応しくない!



しかし、それも今日で終わりだ!

貴族院や王族までは、騙せないだろうからな。



最近、『鑑定の魔道具』などという物が出来たらしいじゃないか。

それを使ってどちらが正しいか、判断してもらうのも良いなぁ…



{注 :『鑑定の魔道具』にそんな機能は、有りません。}



コンコン



「ロピアー公爵家の皆様、準備が整いましたので会議室までご移動下さいませ。」



ようやく婚約破棄の手続きか。

俺様が立ち上がると珍しく執事長のハンソンが



「ナルキス様、御髪が少し乱れております。」



と言って髪を整えた。



「では旦那様、奥様、ナルキス様いっていらっしゃいませ。」



何故かハンソンの態度が何時もより、ちょっとだけ優しかったのは気の所為だろう。

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