第12話 持つべきものは友情(とも)
ざまぁ回その①
【初等部図書室】
『魔法の指輪の本』についての検討はついた。
「エリー!急いで【国立魔術研究所】に行ってエミール殿下に会わないと!」
僕とエリーは初等部の図書室を出た。
すぐにでもエリーと一緒に王都へ向かいたかったけど
「ごめんなさい。これからクラブ部長会議で、生徒会室に行かないといけないの。
ですから王都に行くのは会議の後になりますわね。」
仕方ない、会議が終わるまで待つか……
明日まで待っている時間はないし。
魔道車なら王都まで1時間くらいだしね。
とりあえず兄さんに連絡して魔道車を出してもらおう。
******************
【高等部校舎】
エリーとは一旦、生徒会用の建物【青薔薇館】で別れ、僕は必要な物を取りに行く事にした。
その間にエリーの婚約者が、あんな事を仕出かすなんて……
荷物をバックに詰めながら兄さんに連絡をしようとしたら向こうからポケテル君(携帯電話)にかかってきた。
何やらかなり慌てている!
〔ターク!たいへんだ!!
あの馬鹿婚約者、生徒会室でエリー嬢に『婚約破棄する』とか言ってるぞ!!〕
「えぇっ!?」
僕の予測より早いじゃないか!
******************
【青薔薇館、生徒会会議室】
(キイナ視点)
「エリー・F・ボルネオール侯爵令嬢!
お前との婚約を今をもって破棄する!!」
突然、生徒会会議室に断りもなく入って来た男は、ハデな女生徒を侍らせながら、エリー嬢を指差して【婚約破棄】などと失礼な発言をした。
それを聞いた会議室に居た生徒会役員を始め、生徒会顧問のコウ先生、アドバイザーとして出席されていたハーム女史、そして、私達各部部長と副部長は呆れた目で彼を見た。
それに対してエリー嬢はしごく冷静に
「あら?ナルキス様不躾ですわよ。
今、会議中なのでそういうお話しは後にして頂けませんか?」
そう私達は現在2カ月後の文化祭に向けて会議をしているのだ。
「この様な所で婚約破棄を宣言するなどあり得ませんわ。
それにご両親の許可を得ていらっしゃいますの?」
エリー嬢の質問に、彼は目を泳がせている。
これは…許可を得ていないな。
「だいたいどんな理由があって私と婚約破棄したいと仰るのですか?」
それを聞いた彼は嬉々として『婚約破棄する理由』とやらを語り出した。
「3週間ほど前お前が男と2人で錬金科から出て来たのを彼女アイラが見たと言っている!」
3週間前?
それってもしかして……
「それは私の事だな。
3週間前というと、サンソンの件でターク嬢の所に依頼をしに行った時だね。
その時はきちんと淑女科の制服を着用していたんだが。」
「お、お前は?」
「私は淑女科三年のキイナだよ。
演劇部で部長をしている。
こんな顔だからよく男性と間違われてね。」
私の説明に彼は顔を引攣らせて
「じゃあ男を侍らせていた、というのはどういうことだ?」
彼の言葉に先日、同好会からクラブに昇格した小説部からエミール殿下の代理で出席しているサーラ嬢が
「あら?それでしたら新聞部副部長のニナさんとキイナ様と風紀委員のシノンさんの事じゃないでしょうか?
それに私(わたくし)も一緒に居りましたわよ。」
「じ、じゃあ10日前の夜会で、このリリーにワインを掛けたのはどう言い訳する!?」
10日前の夜会?
「10日前の夜会に、私は参加していませんわよ。」
エリー嬢の言葉に、リリーという女生徒は彼の影に隠れて怯えながら
「嘘です~。アタシ~10日前の夜会でこの人に『ナルキス様に近づくな!』ってワインをかけられたの~。」
「あゝリリー可哀想によほど怖かったのだな?」
絶対に嘘だろう。
その下手な演技に騙されるのもアレだが、そもそも私達がその同日に起こした騒動を知らないのか?
「その日、私達は旧闘技場で“別のパーティー”をしていましたの。
ですから、その夜会とやらには行っておりませんわ。
証言して下さる方なら沢山おられますわよ!」
すかさずその夜会を主催していた、ベルツリー侯爵家のカロラ嬢も
「リリーさんとおっしゃいましたわね?
あの日、我が家で行われた夜会には伯爵家以上の爵位をお持ちの方とそのパートナーしかご招待してませんの。
あなた確か、子爵家の方でしたわよね?
何方と夜会にいらしたのかしら?」
とお尋ねになった。
「もちろん~ナルキス様と~ご一緒にですぅ~。」
その答えに、カロラ嬢は我が意を得たりといった表情で
「語るに落ちましたわね!
あの夜会は、招待状なしでは絶対に入れない物でしたの。
“エリー様のパートナーのはずの”ナルキス様が、あなたを連れて夜会に出席されているのに、エリー様はどうやって夜会に出席するんですの?」
カロラ嬢に指摘され黙り込むリリー………
「そ…それでは、9日前にセリアの制服を切り刻んだというのはどうなんだ?」
9日前かそれもアリバイ成立ですね。
「私達、王城よりご招待されて2日ほど滞在しておりましたわ。
王城で確認して頂ければ、直ぐにわかりますわよ。」
エリー嬢……物は言いようだな。
確かに私達は“騎士団による事情聴取”で王城に召喚されていた。
彼女が言う様な事はあり得ない。
どんどん顔色を悪くしながら『婚約破棄』の理由を話す彼とその取り巻き達……
「じゃあ、これはどうだ!?
5日前に学園の階段でロゼを突き落としたのは⁇」
すると今まで黙っていたハーム女史が
「それはあり得ませんわね。
8日前の午後から1週間、謹慎でしたから、彼女は学園にも登校されていません。
それにその日、エリー嬢は王都の侯爵邸で朝からずっと私(わたくし)と、マナーのレッスンをして居りました。
ですから侯爵邸を抜け出して、その様な事をなさる時間など“全く”ございませんわね。」
ハーム女史の証言に益々顔色を悪くさせる取り巻き達。
周りの方々からは、失笑の声が漏れ聞こえて来た。
「嫌ですわね。
あの方達、ご自分の事は棚に上げて……。」
「浮気をしてらっしゃるのはどう見てもご自分なのに。」
「(頭が)お可哀想過ぎますわよね~。」
「いくら何でもあの女達はないな…全員ビッチで有名な奴等じゃないか。」
「しかも“あの男”の元カノだろ?あり得ねー。」
い、今のは聞かなかった事にしたい…….。
これで全て勘違いと冤罪だと証明されたな。
さぁどうする?
「今までの話を簡単にまとめると『ナルキス殿はご自分の浮気を棚上げし、【婚約破棄の理由】をでっち上げてエリー嬢の所為にしようと恥をかかせた。』って事ですね。
風紀委員会としては看過出来ません!!」
という風紀委員長の言葉に、それを受けた生徒会長が
「生徒会としても大事な会議中に乱入して、会議の邪魔をしたのだから責任を取って貰おうかなぁ?」
風紀委員長と生徒会長が悪そうな笑みを浮かべている。
この時、事態を見守っていた生徒や先生達は皆、思った『コイツら(この方達)終わったな!特にナルキス。』……
自分達のマズイ状況に今更気づいたのか、こっそり逃げようとした者も居たが、既にドアは空手(くうしゅ)部部長のランカ嬢と剣術部部長で、私の婚約者であるレオルによって封鎖されていた。
******************
(エリー視点)
「私達ナルキス様に頼まれて、証言しただけなのよ!」とか「何で誰も本当にいじめられた子がいないのよ!」とか既に自白している者もいますわよ。
「ハイ!言い訳はとりあえず風紀委員会室で、聴くからね♪
副委員長、皆んなを呼んで連行してくれるかな?」
と笑顔で話す風紀委員長。
その隣に立つ副委員長が
「了解です。既に数名外で待機している者もいます。」
連行する際、取り巻き達に
「あんまりペラペラ喋るとオレの楽しみがなくなる……。」
などと小声で言っていたのは、きっと気の所為ですよね?
来年はこの方が風紀委員長だとか怖すぎますわよ!
私を罪に陥(おとしい)れようとした彼女達は風紀委員会によって、連行されて行きましたわ。
その際やっと中に入れたタークちゃんと、こっそり合図を送りあいましたの♪
「で、ここで呆けているナルキス殿はどうする?」
と生徒会長が仰られたので
「公爵家に連絡して、引き取りに来て頂きますわ。」
と言うとコウ先生が
「それは私の方でしておこう。
今回の件は『他言無用』!
これ以上ロピアー公爵家の恥を晒す訳にはいかん!」
そう言えばコウ先生のご実家は、ロピアー公爵家の寄子の伯爵家でしたわね。
生徒会長が疲れた表情で
「こうなっては会議は続けられないな。
また後日、改めて行う事にする。
日時はまた改めて報せるので本日は解散。」
皆さまお疲れ様です。
数時間後ナルキス様はカンカンに怒っている執事長と、数名の屈強な従者や、騎士達によって王都の公爵邸に連れ帰られました。
その際『今回の事は後日改めて、ロピアー公爵家とボルネオール侯爵家で話し合いをする。』というお父様宛の公爵(おじさま)からの伝言とお手紙を預かり、私も一旦王都の屋敷に戻る事にしました。
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