第20話 一カ月ぶりのツイート

 あれから一週間が経ったけれど、ゆき姉からの返信はまだなかった。もしかしたらブロックされているのかもしれない。私の発言の何がいけなかったのだろうか、とあの日からずっと考え続けている。

 ゆき姉は最後に、私のことが羨ましかったと言っていた。でも今まで話していたときも、そんなことを思っていた素振りさえ見せたことなかった。私が配信をしていなかった一カ月の間に何かあったのかもしれない。それとも、私が無意識のうちに彼女に負担を与える何かをしていたか。

 けれど、ゆき姉から返信がない限り、私の中だけで考えていても仕方がない。気持ちを切り替えるように頭を軽く振って、PCの電源をつけた。


 皮肉なことに、彼女の発言で一つだけ私の心がはっきりした。もうこれ以上私にも、私以外の誰かにも「月島ヨナ」のことを振り回してほしくないということだ。今まで通り続けられないなら、私はちゃんと月島ヨナのことを終わらせなくちゃいけない。

 低い動作音と共に、PCのモニターが明るくなる。ゆき姉と通話をした日ぶりにSNSを開くと、通知欄にはいくつかリプライが増えていた。

 ツイートの画面を開き、言葉を探す。引退すると決めたはいいものの、どうやってリスナーに伝えればいいかわからない。

 私の推しのテンシちゃんはツイートだけで、引退も信じられないうちに消えていった。私のリスナーにはできれば、当時の私のような気持ちを味合わせたくない。そう思うと、そのうち改めて引退配信をする必要があるだろう。

 でもその旨を文字にしようと思うと、なんだかうまく文章がまとまらなくて、ツイートを書いては消している。文字数が足りないなと気が付いてメモ帳に書き直したけれど、それでも同じことだった。

 引退をすることも、その理由も自分の口から伝えた方がいいのかもしれない。その方が上手くない文章に無理やり収めるよりも、理解してもらえるような気がする。

 そう思い、メモ帳を消し、ツイート画面に文字を打ち込みなおす。


『長らく配信もツイートもせず、心配をかけてごめんなさい。

みんなに伝えたいことがあるので、今日の22時から配信します。』


 久しぶりにツイートをするだけで緊張していた。なんだか文面だけ見ると重々しくて笑ってしまう。でも、重くていいんだ。引退なんて、軽々しくするものじゃない。

 カチ、とツイートボタンをクリックする。反応が怖くて、PCの画面から目をそらした。けれど、スマホの通知を消すのを忘れていて、通知音で途端に部屋が騒がしくなる。急にいくつも反応がきたものだから、スマホは時折バグったような音を出していた。


 そっとPCの通知欄に目を向ける。いくつものいいねと、下に消えていくリプライには『おかえり』や『配信待っています』などの温かい言葉が並んでいた。とりあえず、それだけでほっとしている。

 もしかしたら本当は、もう誰も私のことなんか気にかけておらず、ましてや覚えていないかもしれないなんて思っていたのだ。一カ月以上配信をしていなかった自分のせいだけれど、それでも忘れられてしまうのは怖い。リプライをくれたアイコンがまだ見覚えのあるもので安心した。


 時刻は二十一時過ぎ、配信の準備をしなくては。あまりに久しぶりだから、どうやって配信するんだっけ、なんて思っている。

 配信の手順は思い出したけれど、サムネイルの作成にひどく手間取った。こういうときのサムネイルって、どうしたらいいんだろう。散々悩んだ末に、白い背景にヨナの立ち絵とその横にお知らせという文字を書いただけのシンプルなものになった。待機所を設定し、改めてツイートを打つ。


『今日の配信の待機所です、よろしくお願いします。』


 リスナーにちゃんと自分の気持ちを伝えなきゃいけないのに、ツイートの文面はやたらと他人行儀になってしまう。なんだか申し訳ないような気がしたけれど、でも、こういう部分をきちんとすることが大事だと思った。

 配信を始めるまでに、自分が話すことをまとめておかなければいけない。台本でも書こうかな、とメモを開きながら、うっかり時間を忘れないようにアラームを設定した。

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